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2003/02/07(金)

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今日、ずっとしまい込んでいたビデオテープの封印を切った。

彼との想い出のビデオテープ。あれから、もう何年経っただろう。もう会えない彼との、想い出の記録。

ビデオの映像の中の彼は、せっぱつまった様子で私を求めている。普段は屈託がなくて明るかった彼。誠実で、誰よりも信頼できた彼。名前を呼ばれるとすぐ駆け寄ってきてくれて、嬉しそうに私を見上げて笑っていた彼。その彼が、いまや牡の本能を押さえきれずに、泣きそうな眼で私に訴えている。どうしたらいいの、と。

画面の中の私は、そんな彼を誘うように床に横たわっている。彼の頭を撫で、何事か言いながら頬を寄せる。だらりと垂れた彼の舌が、私の顔を舐めあげる。私は両脚をひろげ、その間へと彼の体を挟み込む。長い毛が、裸の太腿に擦れている。きゃしゃな私の両脚の間で、ゴールデン・レトリーバーの体躯はどっしりと大きい。

彼が腰を捻ったとき、真っ赤な棒がちらりと画面に映った。彼のそれは充血しきって、つらぬくべき獲物をもとめて揺れ動いている。尖った先端のすぐ下に、私がいる。

私が背中を仰け反らせながら、ゆっくりと腰を持ちあげてゆく。蒼白い私の肌に、毛皮が密着する。

彼が体を揺らすと、私が小さく悲鳴をあげた。それでも、私は止めない。彼の喉から、不安そうな声が洩れている。私なんかが相手で、ごめんなさい。でも……でも私は、どうしてもあなたの初めての相手になりたかった。他の牝なんかには、絶対に渡したくなかった。私が世界でいちばん愛しているのは、あなただから。だから……。

彼が私の中に進んでくるを感じる。ああ、彼は熱く、弾けるように堅くて、逞しいその全長を脈打たせている。ゆっくり腰をずらして、私は彼をもっと深くへと導く。さあ、知ってちょうだい。これが、あなたのための世界のもう半分よ。あなたを包んで、あなたを受け止め、あなたと混じり合う、世界の半分。あなたの本能に応える、牝の世界。あなたという変化の鍵を求める、私という肉体。

やがて彼が自分から動き始め、それがだんだん早く、激しくなってゆく。私は両手を彼の背にまわし、必死でしがみついている。もはや彼は、一匹の牡だ。そして、そして私こそが、彼の最初の牝なのだ。

私を知って……。私を憶えて……。私を、忘れないで……。

そして不意に動きを止めた彼が、体を硬直させる。でも、それは一瞬だけだ。犬の生理に従って、彼は体を捩って後ろを向こうとする。私と繋がったままで。内部深くに彼の先端を感じたまま、私は彼の動きを助ける。彼の根元が急速に膨らんで、瘤になってゆく。入口に鈍い苦痛がはしる。でも、私は逃げない。彼の初めての時を共有したいから。今、この初めての体験を全うさせてあげたいから。

激しく、撃ち抜くような彼のほとばしりを、私は受け止める。息を入れる間もなく、私の内奥で繰り返される、遺伝子の放出。もう、私は何も憶えていない。ただひたすらに、興奮にわななく自分の身体を押さえるだけだ。一体感に満たされて、獣じみた責め苦は、甘く、切なく、いつまでも終わらない。

長い至福の時が終わって、彼は私から出ていった。

私は床に仰向けになったまま、息も絶え絶えに全身を投げ出して、ふしだらな姿をカメラに曝している。彼が戻ってくると、私の頬を舐めあげてくれた。そう、あなたはどんな時も、私に優しかった……。

映像がすべて終わっても、私はじっと画面を見つめ続けていた。

いったい何故、私はこんなビデオを撮ったのだろう。彼の最初の時だから? 私たちの、初めての結びつきだったから? もう、今となってはそんなことは忘れてしまった。大切なことだったはずなのに、何故だろう。

あれからひと月もしない内に、彼はいなくなってしまった。普段はおとなしい彼なのに、突然走り出した彼は引き綱を振り切って、行ってしまった。必死で探したけれど、彼の姿を見ることは二度となかった。彼は今ごろ、どこにいるのだろう。彼は何故、行ってしまったのだろう。まだ、無事でいてくれるだろうか。

私は今、心が揺れている。もう、他の誰かに心を向けるべきなのだろうか。私を見るあの人の目に、私のすべてを見せても良いのだろうか。私のほうが、あなたを忘れてしまっても良いのだろうか。

でも、あの時の私の想い……私を知ってほしいと思った、私をずっと憶えていて欲しいと思った、私の願いは、どこへ行くというのか。あなたに私を忘れないで欲しいと思った、私の願いは……。

私の想い出はもう、自ら息づくのを止めて、錆びてしまったのだろうか。

だから私は今日、忘れかけていた想い出の封印を切った。


とうとう、書いてしまいました。ああ、どうしよう。ちなみに今回の筆者は、私、「C野夢子@普段は翻訳担当」です。ZooM-C と言ったほうが分かりやすいですか。

今回の妄想は、まあ知っている人は分かっちゃうと思いますが、「物語の部屋」に既に掲載されている「風の記憶」を翻案したものです。書けないよ〜、と泣きわめく私に、んならこれ使え、と ZooM-A こと大沢さんが提供して下さったものです。(あはは、名前出しちゃった。大沢さん、ごめん)

しかし何故に、私が妄想を書くことになったのか? それは、そういう「女性限定」なイベントがあったからです(まだ参加してないですが)。Project ZooM のメンバーは、私以外は全員が男性なので、書くとすれば私しかいなかったんですねえ。いえ、私も脳内人格の一人に過ぎない、という点は置いといて下さい。おかげでフルネーム貰えたし、私のほうは不満はございません。うふふ。

さて、役目を終えた私は、本業に戻って翻訳を……ああっ、昨日から全然はかどって無い〜。(T_T)


[2003/02/08 02:00 AM 追記]
※上記で言っているイベントとは「ひめごと雑文祭」というイベントのことです。


ひめごと雑文祭 参加作品

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