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2003/01/13(月)

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これは私の曾祖父から聞いた話だが、なにぶん、小学校に上がるか上がらないかの頃に聞いた話なので、細部をよく憶えていない。しかもこの話は、曾祖父自身がまだ子供の頃の体験だと言うことだから、信憑性はますます低い。しかしなるべく記憶に忠実に、ディテールなどは私の想像力で補って再現してみよう。


春先の頃だったそうであるが、何用かあって曾祖父は一人で道を歩いていたそうである。町中ではなく、山林のそばの小道だったという。子供が何でそんなところを一人歩きしていたのかは聞きそびれたが、いずれ親戚の家にでもお使いに行った帰りであったのだろう。ともかく、曾祖父は一人でその小道を歩いていた。時刻は今で言う午後三時頃で、青空に薄くもやがかかって、汗ばむくらいに暖かな日だったそうである。

ふと気がつくと、誰かが呼ばわる声がしていた。呼ばれている名前は曾祖父の名ではなく、呼んでいる声も知らない人の声だったが、若い女の声だったそうである。

はじめのうち曾祖父はそれを大して気にとめなかったのだが、そのうち声がだんだん近づいてくる。どうやら曾祖父が歩いている道の先から、こちらのほうへ近づいてきているようだった。近づくにつれて、その女は子供を呼んでいるらしいと判ってきた。迷子にでもなったのか、自分の子供を捜して呼び歩いているのだろうと、曾祖父は思ったそうである。

そうして、ついに道の向こうに呼び声の主の女が姿をあらわした。女のほうも曾祖父の姿を目にとめたらしく、ちょっと足を止め、それから必死の様子で曾祖父のほうへ駆け寄って来たそうである。

近くまで来てみると、それはやはり若い女で、子供心にも曾祖父はこんな若い身でもう子供がいるのだろうかと思ったという。ところが、その女は曾祖父を見るなりこう言ったというのだ。

「ああ良かった、ああ良かった、お前をどんなに捜したことか。さあさあ、お母と一緒に家へ帰ろう」

びっくりして何が何だか判らないでいる曾祖父をさっと抱え上げると、女は小走りに来た道を駆け戻って行く。最初は何だか判らずに目を白黒させていた曾祖父も、どうやら自分がその女の子供と間違えられて連れてゆかれるところだと思い至って、わあっと泣き出してしまった。泣き出してしまうと女はますます曾祖父をしっかり抱きしめて、よしよし、とか、もう大丈夫だよ、とか子供をあやすようなことを言う。どうにもならなくなって、曾祖父はますます泣く。泣いている曾祖父を抱いて、女はどんどん道を駆けていき、そのうちどこだか曾祖父の知らない場所を進んでいく。そうして、やがて人気のない道をしばらく駆けていたかと思うと、山の陰になったような場所に建っている家へと着いた。

女は、泣いている曾祖父をなだめながら草履を脱がせ、丁寧に足を拭いてやると家に上げた。どこだか知らない場所なので逃げるのもためらわれ、曾祖父はしゃくり上げながら、じっとされるままになっていた。女は曾祖父に飴玉をしゃぶらせたり、頭をそっと撫でてくれたりと、やたらに優しい。

ひとしきり曾祖父が泣きやむまであやすと、女は開け放した縁側のほうへ声をかけた。何度か声をかけると、家の横手からがさがさと草を掻き分ける音をさせて、やがてのっそりと、大きな黒犬が縁側から家に上がってきた。

「お前さま、坊が見つかったよ」

土足で上がってきた黒犬に文句も言わず、女は犬にそう声をかけた。どうやら黒犬を夫だと思いこんでいるらしく、曾祖父は状況の並々ならぬ異常さに気がついた。それまでは誰か他の人が、例えばこの女の家族でも来れば、人違いに気がついてくれるかも知れなかったが、犬を夫と思いこんで赤の他人を子供と思って攫ってくるような女では、この先どうなるか知れたものではない。

黒犬は唸るでもなく実に堂々としており、ゆっくり近づきながら時折ちらりと曾祖父に一瞥をくれただけだった。見たこともないほど大きな体躯の犬で、濡れたように真っ黒な毛皮が実に恐ろしげだったと曾祖父は思ったそうである。

「ほら、坊もお父にただいましなさい」

女が言うので、曾祖父は恐ろしいながらも手をついて、黒犬に頭を下げた。黒犬はそれまでは曾祖父のことなど知ったことかという様子だったが、女が曾祖父に優しくしているのが気にくわなかったのか、いきなり牙を剥きだして唸り声をあげた。曾祖父は縮み上がって思わず女に縋りついたが、黒犬はますます唸り声を大きくし、爛々と突き刺すような眼で曾祖父を睨みつける。噛み殺されるかも知れないと、曾祖父は思った。

「お前さま、お前さま、どうか怒らないであげて下さい」唸り声をたてる黒犬からかばうように曾祖父に腕をまわし、女は泣きそうになって犬に嘆願した。「せっかく帰ってきた坊ですもの、怒らないであげて下さい。お怒りならあたしが受けますから、坊には非道いことをしないで下さい。お前さま、どうか、どうか」

曾祖父をぎゅっと抱きしめて、女は必死で黒犬をなだめている。黒犬は唸り声をあげながら曾祖父と女の周囲をぐるうりと廻り、さらにもう一度廻ると、いきなり女に飛びかかった。

飛びかかられて、女は曾祖父を抱きしめたまま床に倒れた。曾祖父としても、こうなっては女だけが頼りである。床に押し倒されて女の下敷きになりながらも、その胸に縋りつく。曾祖父をかばって四つん這いになった女の背に黒犬がのしかかり、真上から恐ろしい顔で見下ろしている。黒犬の前脚が女の背中を押さえつけ、後ろから女に馬乗りになっている。

「堪忍です、お前さま。ああ……堪忍ですから、お願いいたします、坊の前では……堪忍です」

黒犬にのしかかられた女は曾祖父を両手で抱きしめたまま、必死で嘆願している。黒犬は女にのしかかったまま、時折激しく前後に身体を動かしている。

「ああ、お前さま……」女が絞り出すように言った。「判りました……お前さま、判りましたから……だから坊は、許してあげて下さい」

曾祖父を抱いたまま、女は片手を後ろにまわし、腰をゆらしながら着物の帯を解いた。曾祖父からはよく見えなかったが、着物の裾をたくし上げたようだった。帯が解けた着物の前が開き、女の豊満な乳房がぐっと押しつけられた。

黒犬は相変わらず唸っていたが、声はずっと低くなった。女は何もしゃべらなくなったが、くいしばった唇の間から時折苦しげな声が、時に細く、時に甲高く漏れた。曾祖父を抱いている女の身体が、そのうちじわりと熱を発するようになる頃には、黒犬の体が大きく前後に動いているのが見て取れた。黒犬の腰が女を打つと、粘るような濡れた音がした。

「坊……、坊……」熱い息で、女は途切れ途切れに、呟いていた。「坊、ごめんよ……こんなお母で……アア、お前さま……坊、ごめんよ……」

女は恐ろしげな黒犬と交合りながらも、それをむしろ悦んでいるかのような様を見せ始めた。犬が腰を突くたびに次第にあからさまに声をあげるようになっていき、女の腰が何とも言えぬ緩やかな動きをし始めると、太腿を伝って滴り落ちてきたものが曾祖父のつま先を温かく濡らした。そんな有り様にもかかわらず女は相変わらず曾祖父を胸に抱きしめ、耳を塞ぎたくなるような嬌声をあげながらもその合間に、坊、坊、と曾祖父に声をかける。どうすることも出来ない曾祖父はただ女の腕の中に抱かれて、はるか上から凶悪な眼光を輝かせる黒犬を見上げていた。

女をこれでもかと犯しながら、黒犬は満足げに唸り声をあげている。犬の身体が、早瀬の波のように早く激しくなっていく。

「お前さま……お前さま……」

眉根を寄せてすがるように顔をしかめ、女はますます狂乱する。曾祖父は、女が死ぬのではないかと思った。女の両腕をぎゅうと掴んで、しかしどうしたら良いかも曾祖父には判らない。

「お母……」

曾祖父は思わずそう呼んだ。

「あ……?」

ふと物狂いから醒めたように女は、下敷きになっている子供を見た。

「坊……?」その女の上で、黒犬が不意に前脚を突っ張り、身体を強ばらせて腰を突き入れた。「アッ……ア、アアーッ!!」

黒犬に深く突かれた女は曾祖父をかき抱き、ぶるぶると体を震わせた。女の全身がかっかと熱く燃え上り、押しつけられた乳房がひしゃげた。押し戻そうとした曾祖父の手に、その女体は火傷しそうなほど淫らに熱がこもっていた。

「お母……お母?」

上にのしかかっていた黒犬がくるりと後ろを振り向くと、突き上がった女の尻を中心に体の向きを変えてゆく。ひい、と女が泣いた。とろとろと股間から流れ落ちた雫が子供の膝や脛に伝い、未だに喜悦の最中であることを吐露する。怯えた子供の視線を知らぬわけもあるまいに、女はそれでも歓喜の呻きを漏らし続けている。

「坊……」絞り出すように女が呟いた。「お前さま……アア、お前さま、アア……」

燃えるような肌に汗が噴き出し、ほつれ毛がへばりつく。女の尻と黒犬の尻が密着し、下腹部にあてがわれた曾祖父の膝小僧に、胎内の蠢きが伝わってくる。何かが噴き出すような、内部から膨れあがるような脈動が、何度も何度も女の中で暴れていた。

「アア、お前さま……アア、孕んでしまう、お前さま」女はうわごとのように呻いた。「そんなに注がれたら、孕んでしまう……ああ、坊が見ている前で、孕んでしまう……坊、坊、お母を……」

「お母……孕んでしまうの?」なにやら心配で曾祖父は声をかけた。

「ああ、坊……お母は……今、孕むところだよ……お父の精を注がれて……お前の弟と妹を、孕むところだよ、坊……」

「でも、犬だよ……」おそるおそる曾祖父は言った。

「そうだよ、お父は立派な山犬だから……アッ、アア……お母はその仔を、孕むんだよ……坊の兄弟だよ……後生だから、坊、お前も欲しいって言っておくれ……坊も、兄弟が欲しいと言っておくれ……お母に孕んでくれと……アアッ、ご、後生です、お前さま……!!」

言葉を搾りながらも女は三たび四たびと身を震わせる。

「お母、犬の仔を産むの?」

「そうとも、そうとも……お母は……今度は……お父に似た立派な黒い仔犬を産むから……アアッ、アアッ!!」

ひときわ激しく身を震わせ、女は曾祖父の上に突っ伏した。そのまましばらくじっとしていたが、それでも頻繁にさざ波のような震えが股間のほうから女を這い昇っては、声にならぬ獣じみた呻きを絞り出した。

「坊……」

だいぶしてから、女は憑き物が落ちたような優しい声で曾祖父に声をかけた。まだ女と黒犬は繋がったままだったが、女の気持ちはひと段落したようだった。

「坊、ごめんよ」女はそっと曾祖父の頭を撫でて言った。「どこの子か知らないけど、本当にごめんよ。あたしに子供なんかいるわけないのに、時々、時々本当にいるような気がしてしまって……。ごめんよ、坊や」

正気に戻った女の顔は、まるで天女のように優しく見えた。女は曾祖父を自分の身体の下から押し出すと、今のうちに帰れと言った。

「今なら、あたしもこの犬も動けないから……さあ、お帰り、坊。それから、本当にごめんよ」

女の下から這いだした曾祖父は、太腿の辺りから下がべったりと女の愛液で濡れていた。女はそれを見て顔を赤らめたようだった。

「あの……」曾祖父は躊躇いがちに言った。「……お母は、大丈夫?」

女は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、坊や。あたしは大丈夫だから……だから、さあ早く、犬があたしから離れる前に」

曾祖父は後ずさりして女と黒犬から離れた。部屋を出るとき、もう一度だけ振り返った。

「あの……元気な仔犬を産んでね」

その家を出た後は一目散に駆けたが、どこをどう駆けたのかはよく憶えていないそうである。一度は川に落ちかけたとも言うから、道でないところも構わず走ったのであろう。

曾祖父が家に戻れたのはもう日が暮れようとしている時分で、家人が心配して探しにでようとしていたそうである。曾祖父は、女に攫われたことは何となく言いかねて、途中の野っ原で遊びほうけていたと嘘をつき、結果、ものすごく怒られたという。


曾祖父が没したのはもうだいぶ以前の事なので、この話がどれだけ本当なのか確かめるすべは、もう無い。



聞いた話なら妄想とは違うだろうというのはその通りだが、曾祖父は私が生まれる前に既に没しているということを付け加えておく。どっとはらい。

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