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2002/11/29(金)

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妖精さん、妖精さん、私に妄想を下さい。エロで獣姦な妄想を下さい。などという、誰かに聞かれたら社会的に抹殺されかねないようなことを呟きながら、11月28日分の「妄想断片の倉庫」を書いていたのだが。

ふと気がつくと、なんだか視野の端がちかちかする。なんだろ、と思ったが、最初はあまり気にとめなかった。そういう事は、ときどきある。ほら、視野の端から中央に向かって、無数の光の斑点がふわ〜っと飛んでいくやつ。経験のある人もいるだろう(え、誰も無いですか)。が、今回はどうも、そういうレベルでは収まらないほどのちかちかぶりだった。なんというか、私の側頭部で連続的にカメラのフラッシュを焚いているかのような、いやまあ、そこまで強烈ではないけれど、でもなんかそれに近い感じ。あえて言えば、あー、ちょっと気色悪い例えだけど、側頭部で蛾か何かが羽ばたいているような。

あまりに煩わしかったので、瞬きしながら側頭部で手を振った。そしたら、叩き落としてしまった。

ぺし。

なんだとー。本当になんかいたのか。なんだ。キーボードの横に落下したそれを、見ると……なんでしょう? かげろうでしょうか? 長くて薄い羽根のある、なんか白っぽい虫。はううう、胴体がなんか変な形してるですぅ。

こんな時期に、かげろうかよ。っていうか、俺の側頭部で羽ばたくんじゃねぇ。びっくりしただろが。一瞬、本当に妖精さんが来てしまったのかと思ったぞ。

キーボードの横に転がったまま、そいつはぴくりとも動かない。うーむ、いったいどう処分したら良いんだ、こんなもの。死んでるのかな。どうなんだ、何とか言ってみろ。触ったら動いたりして。ひえー。ちちちちょっと、触るの嫌だなぁ。でもこのままにしとく訳にはいかないし。今日の分の日記書かないといかんのよ、俺は。

「虫は苦手なんだけどなー」

ぶつくさ言いながら、ティッシュを10枚くらい重ね持って、そいつをつまみ上げようとした……とたんに!!

むくっ。

と、そいつが起きあがったですよ。ええ、もう、そうとしか言えない。むっくりと体を起こしやがったです。ザクに迫られたガンダムのように。私にとってはガンダムより怖かったですが。驚くとなぜ敬語。

「いきなり、何すんのよぉ!!」

ししししかも、喋るし。ひえー。ししししかも、女の子の声。はうあー。

「うにゃあ……」

悲鳴だかなんだか分からない情けない声を出しながら、もはや完全に逃げ腰モード。アパートを捨てて実家に逃げ帰りたいと思った。80% くらい本気で。

「なにが『うにゃあ』よ。あんたは猫か」

そう言われても、私にどうしろと。虫が喋ったりしたら、腰が砕けるぞ、普通。いや普通はこんな事態は起こらないだろうけど。

「むし〜?」

10枚重ねのティッシュを宙に掲げたまま、私はうなった。言語機能がシステムエラー起こしそう。それ以前に、現実認識デーモンがアプリケーション・エラーですよ。何を言っているんだ、私は。

「誰が虫よ。あたしが虫に見えるっての?」

「だって羽あるし……」

「羽があれば何でも虫だっての? じゃあ、カラスも虫なわけ?」

「いや、そのう、体小さいし……っていうか、あの、何物ですか」

思わず敬語でしゃべる私。っていうか、正体不明の生物相手にタメ口で渡り合えるような根性ねぇよ。あってたまるか。

「何物、って随分なご挨拶ね。あなたが呼んだんでしょうが」

「はい〜?」

呼んでねぇよ。

「なに、呆けた顔してんのよ。『妖精さん、妖精さん』って、さっき呼んでたでしょうが」

「ああ……そう言うことですか」

曖昧な愛想笑いを浮かべて、とりあえずそう言っておく私。そういえば、どっかの格言にありましたな。「願い事をするときは気をつけろ。現実になるかも知れないから」って。諺にもありましたな。「後悔先に立たず」って。でも普通、呼んだからって来ないよ、妖精なんか。

「なによ。信じないっての?」

「いや、信じますけど」

他に選択肢あるのか。とりあえず、彼女(女だよな、これ)をもう少し詳しく観察することにした。妖精がどんなものなのか、見ておいて損はあるまい。ネタになるかも知れないし。

なるほど、妖精だ。フェアリーとか言うのだろうか。キーボードの横に立った彼女は、身長約15cmくらい。かげろうみたいな、薄くて透きとおった羽が4枚。羽は基本的に透明みたいだけど、心持ち光を発しているような感じだ。さっきはこれが視野の片隅に入って、ちかちか見えたんだろうと思う。頭部に触覚2本。その触覚があるせいか、頭部の形は人間とちょっと違うような。蜘蛛の糸のような真っ白な髪は、背中の中ほどまである。で、目が複眼。鼻と口は人間と同じように見える。腕が2本に脚が2本。服は着ていない。胸は小さめ。乳首は、えー、まあ、ピンク、かな。

「どこ見てんのよ。やらしいわね!!」

「あ……すいません」

って、全裸でいられたら、そりゃ見てしまうだろ!! 謝ってから気がついてもな。いや、気がついても謝ってただろうとは思うけど。ちなみに、股間は無毛だった。(オイ)

「ところで、そのう……」おそるおそる、私は尋ねた。「うちへは、いったいどんなご用で?」

彼女はため息をついた。

「だから、あなたが呼んだんでしょう」

「あ、ああ、そうだったっけ。え? でも、そうすると……」

「そうよ。妄想が欲しいっていうから、それを届けに来たのよ」

マジですか。

「いや……どうも、ありがとうございます」

「うん……そうなんだけど……」

とたんに、彼女は歯切れが悪くなった。

「そうなんだけど、って?」

「まあ、ちょっと、そのう……」

「ええと、もしかして」やっぱりというか、人生そんなに甘くないというか。「やっぱり、その……エロとか獣姦とかは、駄目……でしょうね。あはは」

それ以前に、他力を当てにするのが間違っていると思うぞ、俺。

「いえ、それは大丈夫なのよ」おお、意外な展開。「まあ、人としてどうか、とは思うけど」ありゃ。

「それは大丈夫、ということは、他に何か問題があると?」

「まあ、かなりあるわね」

「……どんな問題でしょう?」

かなり、って言われちゃったよ、おい。いいけどね、別に。

「ええと……あのね、本当は、あなたの耳元で妄想を囁くつもりだったのよ。ほら、妖精ってそうするものでしょう。ね?」

「ね? って言われても、妖精なんか見たの初めてだし……そうなんですか」

「でも、ほら、あたし姿を見られちゃったから」

「はあ?」

見られると魔力を失うとか、なんかそんな縛りがあるんだろうか。

「たとえば、ええと……『花嫁と犬』ってどう?」

「ええ? どうって言われても……書いたのは1ヶ月以上前だし。けっこう人気はあったみたいだけど」

「じゃあ、『スチュワーデスと犬』ってどう?」

「あんまり反応はなかったなぁ。って、ネタの復習ですか」

「違うわよ!! 妄想のネタを囁いてあげてるの!! じゃあ、『痴漢で獣姦』とか」

「って、ミスマッチ妄想シリーズじゃん!! とっくの昔に書いてるよ!! 全部、過去のネタなんですけど」

「つまり、そういうことなのよ」

「え?」

何が、そういうこと、なのよ?

「もし、あたしがあなたに姿を見られていなかったら」彼女は羽をはばたかせて浮かび上がり、私の鼻先でまくし立てた。「あなた、あたしの事なんか知り得なかったでしょう?」

「そりゃまあ、そうだろうと思うけど」

「つまりあたしは、あなたにとって未知の存在であり得たわけよ。わかる?」

「まあ……知らないんだから、未知と言える、かな」

「でも、あたし、姿を見られちゃったでしょ? もう、未知の存在じゃないのよ」

「そうだねぇ」

なんだか、哲学談義っぽくなってきたぞ。

「だから、あたしはもう『あなたの知っているもの』でしかないのよ。既知の存在なの。既知になっちゃったあたしには、既知のアイディアしか出せないのよ!!」

あんぐり。そそそ、そういうものなのか? 妖精って、そういう存在なのか? っていうか、既知のアイディアしか出ないんじゃあ……

「それ、致命的じゃん!!」

新しいアイディアをくれるんでなきゃ、意味ないわな。うむぅ。偶然とはいえ、叩き落としてしまったばっかりに。目のちかちかぐらい、我慢すりゃ良かった。

「……」

「……」

「ごめんなさい……」

「いえ……」

まあ、人生、そういうこともある。今回は残念賞ということで。妖精見れただけ得したと思っておこう。って、見ちゃったから駄目になったんだけど。しくしく。

「あのぅ……」彼女はおそるおそるといった感じで切り出した。「あたし、あなたの妄想を手助けしなきゃいけないんで……」

「え? ああ、いや、大丈夫ですよ」と、私は答えた。「まあ、しばらく放っとけば、そのうち何か思いつきますから。今回は、まあ、不幸な事故だった、ということで」

「あの、そうじゃないんです」

彼女は空中でもじもじしてみせるという曲芸を見せた。

「は?」

「あたし、あなたがなにか妄想を手に入れたっていう証拠がないと、帰れないんです」

「なんやて〜!!」

河内か、俺は。アフロになって再登場。

「それって、つまり……私が何か妄想をひねり出すまで、あなた帰れないってことですか」

「そうなんです」

「しかも、それを私1人でやれと」

「ご、ごめんなさい……」

そうやって、手を合わせられてもな。いや、可愛いけど。

「いやぁ……どうしよ」

「お願いします。あたし、明け方までには戻らないと、消えちゃうんです」

「ななな、なんやて〜!!」

おいおいおい。いきなりピンチじゃん。ここ1ヶ月近くどうにも出来ないでいたことを、今夜ひと晩でやれと。実際のところ、つい妖精さんを呼んでしまうほどの状況だった私に、それをやれと。肝心の妖精さんはいきなり戦力外になってるし。

「あの、あたしお手伝いしますから」

「うん。まあ、なんとかなるでしょ」もちろん、根拠ないですが。

「何でもしますから」

「なんでもね」

「はい、妄想の手助けになることなら、何でも」

ちっ。さりげなく言い直しやがったな。

「ええと、あなた魔法って使えます?」

「ええ、少しなら」

「生き物を呼び出したりとかは」

「あたしより小さい生き物なら」

うーむ。妙齢の女の人と犬を呼び出して、目の前で獣姦を実演、というのは無理か。ま、狭いアパートの部屋だから、もともと無理があるけど。いや、まてよ。

「もしかして、あなた自身の体を大きくするとかは」

「できません」

がっくし。彼女自体が大きくなれば、犬でも人間でも馬でも召還できると思ったんだがなぁ。

「いっそ、私の手であなたを手込めに」

「はい、構いません」

「……」

「……」

私はため息をついた。

「それじゃ獣姦にならないか」

「そう……ですね。いちおう、種は違いますけど」

「だいたい、私とあなたじゃ、体の大きさが違いすぎるし」私は頭を掻いた。「あなたとやらせるにしても、あなたと同じか、それより小さい生き物でないとなぁ。例えば蜘蛛とか……あ」

「……え?」

「……(汗)」

私は視線をそらし、天井を見上げた。うむぅ。出来ちゃうじゃん、妖精と蜘蛛。って、それを今、この状況で彼女に要求するのは……鬼畜。

「何か、思いついたんですか?」

「いや……」

「思いついたんですね?」

「えぇと、そういうわけでは……」

「思いついたんなら、言いなさいよ、あんたは!!」

「ななな……なんと!?」

「え、いえ、あの……言って下さい。やってみます」

上がり下がりの激しい人だな、この人も。

「じゃあ……あなた、仲のいい昆虫とか、います?」

「ええ!? いえ、別にいませんけど」

「仲のいい蜘蛛とか」

「いません」

「ふむ……」

「あの……何を思いついたんですか?」

「いや、蜘蛛なら呼び出して、あなたと姦らせられるかな、と」

「く、蜘蛛、ですか……?」

あ、引いてる。そりゃそうだ。

「まあ、タイムリミットが今夜中だし、そういうのもアリかな、と」

こらこら、プレッシャーかけてどうする、俺。鬼畜への道、まっしぐら。

「……わかりました」特に何の感情もあらわさず、彼女は平板な声で言った。「あたし、蜘蛛と姦ります」

「いや、それは……そのぅ、無理にとは」

「いいんです。姦らせて下さい」

「でも……」

「時間ないですから。お願いです、あたしを蜘蛛と姦らせて下さい」

「えぇと……」

「もう!! 意地悪しないで……」彼女は身悶えして訴えた。「あたしが蜘蛛とセックスして見せるんじゃ、妄想の役に立たないですか?」

「いや、そんなことないです」私は慌てた。「役には立ちます、はい」

「じゃあ、姦ります」彼女は顔を上げ、じっと私を見つめた。「命令して下さい……あたしが、その、どういうお手伝いをすればいいのか。あなたの口から、はっきりと」

やむを得ない。私は彼女に命令した。

「蜘蛛を、ええと、雄の蜘蛛を呼び出して、その蜘蛛とセックスして下さい。ちゃんと、あなたの……内部に射精されるところまで」

「はい」彼女は答えた。「ご命令に従います」

彼女は羽を震わせ、すいっ、と宙に浮かんだ。ぶぅん、と微かな音を響かせ、透明な羽が震動する。なにか輝きのような、鱗粉のようなものが、彼女の周囲に満ち、さらさらとこぼれ落ちていく。魔法だと気がついたのは、後になってからだ。輝きが消えると、机の上……輝きが落ちていったちょうどその辺りに、4、5cm ほどの蜘蛛が鎮座していた。

すーっと机の上に降り立った彼女は、羽を開いたまま、ぺったりと机にうつぶせになった。

「この蜘蛛には、あたしが雌の蜘蛛に見えているはずです。さあ、おいでなさい」

雄蜘蛛は、すっ、すっ、という敏捷な動きで、様子を見ながら彼女に近づいて行った。いっきに襲いかかったりはしないものらしい。やがてあと一歩で彼女に触れるという位置まで来ると、雄はくわっ、といちばん前の2本の脚を高く掲げた。

「お、おい、大丈夫なのか?」私は思わず言った。

「大丈夫です。これが蜘蛛のやり方ですから」机の上に伏したまま、彼女は平然としていた。「ほら、雌が逃げないとわかると……来ますよ」

高く掲げた前脚を、雄はそうっと前に降ろしていった。そして前脚が彼女の上に降ろされると、相手の機嫌を窺うかのようにゆっくりと、彼女の背に這い登って行った。

「蜘蛛の頭部に、触角みたいな小さな脚があるの、わかりますか?」彼女がささやいた。

言われて、よく注意して見ると、確かに触角のようなものがある。ただ昆虫の触角とは違って、顎の下のほうに向いているように見える。

「うん、ある」

「それ、触肢って言うんです。蜘蛛はその触肢の先から、精子を雌の中へ送り込むんです」

彼女の背中に完全に乗り上げた雄は、じわじわと股間のほうへ這い寄っていく。彼女は心持ち尻を上げ、雄を誘った。雄の前2本の脚が、彼女の両脚を押さえつける。触肢が股間へと動く。私は首を伸ばして、彼女の背後からその様子を見守った。触肢が彼女の尻に押しあてられ、そしてその先端から、さらに何か細いものが、素早く彼女の中心を突き刺した。

「あぁっ!!」

「お、おい、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……挿入された……だけです……あぁぁぁぁ、く、来る、来るぅ!!」

彼女の秘部に押しあてられた触肢の先端が、冷たく脈打っているようだった。どれだけ深く挿し込まれたのか、彼女の体内に送り込まれた生殖器官から、蜘蛛の精子が流し込まれているらしい。彼女の羽が、ひくひくとわなないた。

「あ……も、もう……そんなにたくさんは……駄目、もう一杯なのに……あぁっ、まだ……まだ、あるの? ……あっ!! ……あっ!! ……あぁーーーっ、まだ、注がれるぅーーーっ!!」

身悶えする彼女を押さえ込み、雄は容赦なく精子を注ぎこむ。狂いそうなほど悩ましげに尻をふる彼女の膣内へ、雄は悠然と子種を送りつづけた。

やがて全ての精子を雌の胎へ送りきったのか、雄蜘蛛は彼女の背から降り、身を引いた。鱗粉をまぶしたようにその姿がぼやけ、ふと気がつくと、机の上には妖精が1人で横たわっているだけだった。

「あ……はぁ……」

立ちあがる力すら使い果たしたのか、彼女は机の上にうつ伏せになったまま、ときおり呻いたり、羽を震わせたりするだけだ。私は何も言わず、彼女が回復するのを待った。ビデオか何かに記録しておけば良かったと思ったが、今さらどうにもならない。

ずいぶん経ってからようやく、彼女は物憂げに身を起こした。下腹部が、わずかに盛り上がっているようだった。

「かなり大変そうだったけど……」

「もう、大丈夫です」彼女の声は疲れ切ってはいたが、満足そうだった。

「蜘蛛のあれ、どのくらい中に入ってたんですか?」

ふと心配になって、きいてみた。だが、彼女はちょっと笑って、こう言っただけだった。

「かなり深く」

いやはや。何ともなさそうに見せかけているだけなのか、それとも、実は本気で満足してしまったのか。どちらなのか、私には判断がつかない。だが、とにかく、蜘蛛と交わってしまったからと言って彼女が悲嘆にくれている様子は、なかった。

「ねえ」彼女が言った。「これ、妄想のお手伝いになったかしら」

「あー、充分に」

私は答えた。これをそのまま書いたっていいくらいだ。もっとも、それでは妄想と言えるかどうか。

「よかった。これであたし、帰れるわ」彼女はにこやかに言った。

ふと疑問がよぎった。

「ねえ、今度の件、どこまで本当だったんです?」

「あら、何のこと?」

「だから、姿を見られたら既知のアイディアしか出せないとか、夜明けになったら消えちゃうとか」

「やーねぇ。全部、本当に決まってるじゃない」馬鹿にしたように彼女は答えた。「全部よ、全部。でも、ここまで狙いどおりに行くとは思わなかったけど」

彼女はぺろっと舌を出して見せた。

「狙いどおりぃ!?」

「まあね」

羽を震わせ、彼女は宙に浮かび上がった。体をまっすぐにすると、下腹部が注ぎこまれた蜘蛛の精子でふっくらと膨れているのがわかる。彼女はその膨らみを、愛おしそうに撫でた。

「あたしのお母さんもね、妖精じゃなくて、昆虫と交わったんだって。あたしの複眼は、お父さんゆずりなの」

鱗粉のような輝きが、彼女の肉体を包みこむ。

「それを知ってから、あたし、ずうっと憧れてたの。こういうチャンスをね。いつか、誰かがあたしを呼んでくれないかって。それが、異種交配に抵抗を持たない人ならいいなって。うふふ。予想以上だったわ、あなた」

流れる砂のような輝きに包みこまれ、彼女の姿はぼうっと霞んだ。

「黙ってたのは悪かったけど、でも言ったことは全部本当よ。あたしにとっても、いちかばちかの賭けたったの。それに、あなただって……」

いきなり私の耳元に飛び込んで、彼女はささやいた。

「……けっこう、いい思いしたでしょ。本気のあたし、かなり淫らじゃなかった?」

そして、彼女は消えた。


というわけで、蜘蛛話 ZooM バージョン。小説ではなく妄想になってしまったが。

蜘蛛の交尾については、調査がやや不足気味だったので、けっこう漏れがあると思う。蜘蛛の精液の量とか、性交時間とか、ぜんぜん分からんかったし。

明日は「妄想断片の倉庫」の更新はお休み。次回は12月01日から。

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