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2002/10/07(月)

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花嫁と犬、というのはどうだろう。

花嫁で思い浮かぶのは、もちろん結婚式だ。真っ白なウェディング・ドレス。教会の鐘が鳴り渡り、人々が見守る中、牧師の言葉が静かに響く。そして、犬。……犬?


純白のウェディング・ドレスに身を包んだ亜美を見て、父は少なからず動揺したようだった。

「お父さん!!」亜美は父に微笑んだ。

「ああ……亜美」父は、右を見て、左を見て、途方に暮れたようにため息をついた。「その……綺麗だな、うん。だが……そのぅ……なんなら思い直しても……」

「何言ってるのよ!!」亜美はちょっと怒った振りをした。父の気持ちは分からないでもないが、亜美は決意を翻すつもりはない。「もう、お父さんってば!! これから式が始まるっていうのに」

小さな教会の、花嫁の控え室。もう参列者たちと花婿は入場しているはずだった。これから花嫁が父親につれられて入場し、そして式が始まるのだ。父は昨日まで、いや今日の朝まで、娘の結婚のことをぐずぐず言っていた。どうやら、この期に及んでもまだ、ためらっているらしい。

だが、いまさら式を中止など出来るはずもなかった。いや、中止すれば父は喜ぶかも知れないが、亜美は絶対に、式だけは挙げておくつもりだった。もしかすると、この式だけが、亜美と彼を結びつける絆として残ることになるかも知れないのだから。

時間が来て、亜美は立ちあがった。

「行くのか?」父はまた、ため息をついた。

「ええ」亜美はそれだけ答えた。

控え室から扉の前まではすぐだった。父の腕にそっと手をかけ、亜美は扉が開くのを待った。

扉が開いた。ウェディング・マーチが始まった。亜美と父は、ゆっくりとヴァージン・ロードを進み始めた。

「あら、まあ、ホントに来ちゃったのね」誰かがこそこそ囁いたのが聞こえた。

聖壇の前で、新郎のジョンが待っていた。

付き添いから、亜美は新郎の引き綱を受け取った。亜美とジョンは牧師の前に並んで立ち、参列者たちが立ちあがった。賛美歌の斉唱が始まった。

突然始まった人々の歌声に、ジョンはぴくりと身を震わせた。大丈夫よ。亜美は心の中で新郎を励ました。何も怖くないわ、みんなはただ、私たちを祝福してくれようとしているだけ。何でもないのだということを示すために、亜美は平然とした態度を保ちつづけようとした。だがジョンはやはり、落ち着かないようだ。無理もない。ハスキー犬である彼には、教会の中に入るなど、今まで無かった経験だろうから。

賛美歌が終わり、牧師が聖書の朗読を始めた。式次第が次々と進んでいく中で、亜美はジョンとの想い出を噛みしめていた。

初めてジョンと出会ったペットショップ。いつのまにか彼のことを考えて過ごすようになった日常に、ふと気がついたあの時。はじめて結ばれた2人きりの休日。一生を捧げる決意をした夜。父の反対と、ジョンと共に家出した数日間。ハスキー犬と一緒の逃避行は、それなりに楽しかったけど。そして今、あたしはこの犬の妻になる……。

ジョンの緊張は、限界ぎりぎりまで来ているようだった。彼はうろうろとそこらをうろつき廻り、亜美が引き綱をしっかり持っていなければ、どこへ逃げ出したかわからなかった。だがもうじきだ。もうじき、式は終わる。あとは誓約と……。

不意に、何かが破裂したような乾いた轟音が炸裂した。それはたぶん、教会の外の道路を走っていた車がバックファイアかなにかを起こしただけだったのだろう。だが、ジョンの神経にはそれで充分な一撃だった。

ジョンは猛烈にダッシュすると、唯一安全そうに見える場所に……つまり、亜美のドレスのスカートの中に潜りこんだ。

「……くぅん?」おそるおそる鼻先だけを覗かせ、ジョンは周囲を窺った。

珍妙なことになった。牧師は苦虫を噛み潰したような顔になった。新婦のスカートに隠れる新郎など、前代未聞だ!! 犬というだけでも問題があるのに、こんな臆病者と来ては……。参列者たちの誰かが、くっくっくっ、と笑いを漏らしている。えぇい、くそ!! どのみち破格な式なんだ、構わないからさっさと終わらせてしまおう。そして今日のことはいっさい忘れちまおう。

「ジョン、あなたはこの姉妹と結婚し、神の定めに従って夫婦になろうとしています。あなたはその健やかなるときも、病めるときも、つねにこれを愛し……」

無表情を装って、牧師は誓約の言葉を読み上げ、そして亜美の足元から覗いている鼻面に向かって言った。

「……誓いますか?」

「……きゅぅぅん」牧師の冷厳な視線と威圧的な態度に、ジョンはますます怯えた。

「よろしい」

どのみちハスキー犬には「はい」とか「いいえ」とか答えられるはずもない。牧師は、強引にこれで良いことにしてしまった。怯えたジョンはドレスの中に完全に撤退してしまったが、とりあえず返事は聞けたことだし、もうどうでもよい。

亜美は唖然として事の次第を見守っていた。最初はジョンを追い出すつもりだったのだが、牧師がさっさと式を進行させてしまったため、そのタイミングは完全に失われてしまった。自分の両脚のあいだで縮こまっている新郎を、どうすることもできない。

「西山亜美」

「は、はいっ!?」

不意に名前を呼ばれて、亜美は反射的に返事をした。牧師が、じろりと睨んだ。あちゃ、返事は要らなかったかしら?

「あなたは、この……」

言いかけて、牧師は言葉に詰まった。この兄弟、と続くはずだったが、肝心のジョンが完全に姿を隠してしまっている。これでは「この」と言ったところで誰を指すやら分からないではないか。

亜美は亜美で、また別の問題が発生していた。度重なるストレスに追いつめられたジョンが、安心を求めてのことか、慣れ親しんだ匂いをたどって、ドレスの内側で亜美の股間に鼻面を押しつけてきている。まずいことに、それは亜美にとっても慣れ親しんだ感触だ。条件反射的に、下着の奥が潤ってくる。どっ、と溢れだした牝の匂いを嗅ぎつけ、ジョンはたちまち雄犬モードに突入した。

駄目ぇ!! 亜美は心の中で叫んだ。こんな、こんな大事な式の最中に、駄目よ!! ああ、あたしの身体が反応しちゃう……お願い、我慢して、ジョン……あとで……あとでなら、どんなことでもさせてあげるから。あっ……舌が……あ、あ、あぁぁ……腰が、揺れちゃう……。

股間に鼻先を押しつけ、ジョンがぐうっ、と身体を伸ばした。と同時に、後足を巧妙に亜美の脚に絡ませ、バランスを取りにくくする。

つい最近、ジョンが勝手に習得した技だ。亜美を押し倒し、のしかかり、そのまま交尾へと持ち込むのだ。これは亜美も「レイプごっこ」と言って面白がっていた。それを、こんなところでやられるとは。

「きゃっ」

亜美は横倒しになった。牧師は目を剥いた。犬が新婦を押し倒し、すばやく下半身の下着を剥ぎ取っている。真っ白な太腿の間に、よく繁った黒い毛髪が映える。素っ裸の下半身を牧師に、父親に、参列者たちの眼に晒して、亜美はかーっと血が昇ってくるのを感じた。

ジョンはもはや、いつもと同じ行動を取り始めていた。剥き出しになった亜美の股間にのしかかり、腰を押しつける。

あなたは、この……」自棄になったように、牧師が喚いた。「この……畜生と結婚し、神の定めに従……神の定めに逆らって、夫婦になろうとしています。あなたはその健やかなるときも、病めるときも……」

とにかく、逃げなければならなかった。亜美は必死で新郎を押し戻そうとした。父は呆然として突っ立っているだけで、まったく助けてくれない。

かろうじてジョンの身体の下から這いだし、亜美は起きあがるために体の向きを変え、両手をついた。そこへ、再びジョンがのしかかってきた。四つん這いになった亜美の格好は、まさに牝犬スタイルそのもので、ジョンとしては見逃すわけにはいかなかったのだろう。そして一旦のしかかってしまえば、お互い慣れ親しんだ身体である。ジョンが腰を沈めると、その一撃目は狙い過たず、亜美をつらぬいた。

「あ……っ、くうっ!!」なじみ深い挿入感に、肉体が敏感に反応する。

ジョンはためらわずに腰を動かし始めた。参列者たちの視線が集中する中、亜美は犬につらぬかれ、つらぬかれ、奥深くつらぬかれた。両手の力がぬけ、床につっぷしてウェディング・ドレスの袖を噛む。だが尻が、快楽の源を求めて、勝手に左右にくねり、ジョンを誘ってしまう。

「あ、亜美……」父はどうしたらいいか分からず、おろおろしている。

「お、お父さん……駄目ぇ」思うように言葉が出ない。「入ってる……ジョンが……あぁんっ!!……犬のが、入ってる……お父さぁん!!」

「つねにこれを……この畜生を愛し、この畜生を慰め、この畜生を重んじ、奉仕し……」

「あぁっ!! だ、駄目ぇ……ジョン、駄目……あんっ!! あ、ああっ……!!」

「……その生命の限り、かたく節操を守ることを誓いますか?」

「ああぁっ!! あぁ……ジョン!! ……ジョン!! ……あ、はぁっ……ん!!」

誓いますか!?

「ち、誓います……あぁっ、イくぅっ……誓いますぅっ!! あぁっ!! いぃーーーーっ!!」

牧師は、バタンッ、と音を立てて聖書を閉じた。その表情は鋼鉄のように固かった。

「それでは、指輪の……いや、ええと……ええい、首輪の交換を!」熱線のような視線を父親に向ける。

「は、はいっ……」

父親は慌てて指輪を……首輪を探した。本来なら新郎新婦たちが自分でやるところだが……いや、ジョンは自分では出来ないから、やはり誰かが嵌めてやらねばならないか。とにかく、彼は首輪を見つけた。新郎用が黒で、新婦用が赤だ。

やや手間取ったせいで、ジョンはすでに次の段階に移りつつあった。亜美の肉体に根元まで埋めたペニスもそのままに、体の向きを変え、長時間にわたる交尾結合を始めようとしている。その間中、彼は娘の胎内に精子を注入しつづけるだろう。

ジョンに首輪を嵌めるのは、まったく簡単だった。元々の予定では、この段階が最も困難だと思っていたのだが。しかし今、ジョンは交尾結合で身動き取れない状態になっているため、古い首輪を外しても、逃亡する危険はなかった。新郎への首輪は、実にあっさりと嵌められた。

そして彼は、亜美のほうにとりかかった。娘は乱れたウェディング・ドレスの上に伏して、歓喜の絶頂で身を震わせていた。ときおり新しい絶頂が突き上げるのか、くぅっ、と背中が反り上がる。

「亜美……」

「ああ……お父さぁん……」

「さあ、首輪だよ」

「うん……」娘はこくりと頷いた。かつて幼子だった頃のしぐさが、まだその影を残していた。「嵌めて……お父さん」

真っ赤な首輪を、彼は自分の手で実娘の首に巻いた。純白のウェディング・ドレスに、その首輪の背徳的な赤が艶やかだった。

「ジョンと亜美は、神と公衆の前で夫婦となる約束をした」牧師は叩きつけるように宣言した。「ゆえに私は……父と子と聖霊のみ名において、この畜生と淫売とが夫婦であることを宣言する!! 神があわせられたものを人は離してはならない。以上!!」

言うだけ言うと、牧師は足早に退場していった。

「ねえねえ、記念写真撮りましょうよ」誰かが言った。

さっそく、シャッターを切る音が響いた。新郎と新婦は接続されたまま床に這い、人々はこれ幸いとばかりに、あらゆる角度から「記念写真」を撮りまくった。

「あぁ……」亜美は呻いた。「こんなに……こんなに、感じたの初めて……ああ、ジョン、もっと……もっと注いで……お願い……あぁーーーっ!! また、いくぅーーーっ!!」


いや、こんな結婚式、申し込まれた時点で、教会はデフォルトで断るだろ、普通。

それはいいが、今日は蜘蛛第2部、全然作業してないな。しかも今、午前1時半だし。とほほ……。

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