(二)雨中に平太が見回りに行くこと

それから何日か雨が続いて、加代と平太はほとんど外に出なかった。もっとも、平太は一日おきに田畑を見回りに出た。あまり水が増えるようだと田が流されてしまうし、畑のほうも見てやらなければならなかった。加代はずっと家の中で、繕い物をしたり、簑やわらじを作ったりして過ごした。見回りに出ない日は、平太も縄ないやわらじ作りに精を出した。

そんな日が続くうち、いったいどうしたのかイワオの様子に落ち着きが出てきたことに、平太は気がついた。

用もなく馬屋の中をうろつきつづけるようなことがなくなり、立つ様が泰然としている。体を撫でても苛つくこともない。ただ、しっぽを振る様子や首の振り方に、やはりまだ落ち着かないところがある感じはする。が、それでもだいぶ、以前のイワオに戻ったようだった。

「おねえ、おねえ」夕めしの後、平太はせきこむように姉に呼びかけた。「イワオのやつ、なんでだか知らんが、ずいぶん落ち着いたと思わんか」

「そうじゃねぇ」加代は繕い物の手を休め、ほおっと微笑んだ。「ほんとうに、いい落ち着きが出てきたよ。これでなんとか、この先もやっていけそうだねぇ」

「まったくだ」平太は、うんうん、とうなずいた。「まだちょっと苛々が残ってるような風もあるけどなあ。でも、よかったよ。あのままじゃどうしようかと思ってたところだったもんなあ」そしてひょいと首をかしげた。「それにしても、いったいなんで元に戻ったのかなあ。いや、それを言うなら、いったいなんであんなに落ち着きがなかったんじゃろう」

「さあねぇ」加代はさしていぶかしむ様子もなく、微笑んでいる。「なんにせよ、イワオが元に戻ったんじゃから、嬉しいことじゃ」

「そうじゃな。そうじゃともさ」平太は姉の明るい陽射しのような笑顔を見ながら、また、うんうんとうなずいた。

◆ ◆ ◆

翌日、平太はまた田畑を見回りに出た。夜の雨がひとしきり強く降ったので、万が一ということで田畑を見てくることにしたのだった。雨具をつけて家を出ると、たなびく絹糸のような雨に首をすくめ、平太は田へと向かった。

平太の家が持っている田は、庭先から坂を下って木立を抜けたところにひとつと、その坂を戻ってきて家の横をぐるりと迂回しながら山腹へ登っていったところの、坂上の田が4つほどある。坂上には田だけでなく畑も作っているが、そのあたりを切り開くにはひいじいさまの代からお父の代まで、三代がかりでやったのだという。坂下の平地はほとんど他の家のものになっていたから、新しく田畑を開こうとすれば必然的に坂の上へとあがるしかないわけだが、山腹を平地に変え、水回りから何から造っていかなければならなかったのだから、さぞ大変だったことだろう。

坂上のいちばん近くの田を二つほど見回ったところで、どうやら危惧するほどのこともないと見極めて、平太は家に戻ることにした。まだ全部を見回ったわけではないが、昨夜の雨は思ったほど水量が多かったわけではないらしい。

安心したせいかどうか、それとも、イワオが元に戻ったりして心が浮ついていたのか。帰り道でちょっとした坂にさしかかったおり、平太の足が滑った。足の下でずるりと泥がぬめった、と思ったときには、体勢を立てなおすには遅すぎた。ずででん、とそれは見事に平太は、坂の下まで転げ落ちた。転んだ拍子に背中を打ったらしく、息もできない。やっとのことで起きあがろうとすると、変な転びかたをしたのか、左の足首に激痛がはしった。

「こ、こりゃあ……まいった」

どうしようかと思ったが、鳥の声さえしない、しのつく雨の中である。自力で家路を辿るしかない。痛みを堪えつつ、そおっと平太は歩き出した。雨の坂道を転げ落ちたせいで、膝やら顔やらに泥がこびりついている。水溜まりにつっこんだせいで、せっかく雨具をつけているのに顔から腹までずぶぬれだ。顔を拭こうと手を見ると、両手とも手のひらは泥だらけ。どうやら戻る前に、家の裏手の小川で泥を流さねばなるまい。

ようやっとのことで家にたどり着き、痛む左足をかばいつつ、平太は家の裏に回った。川とも言えないような水流が上の沢から分かれてきて小さな滝をつくり、木樋を埋め込んだ溝に流れ込んで、そのまま下の沢のほうへと落ちていく。この小さい水路を造るために、お父はずいぶん試行錯誤したと話してくれた。そのお父のおともに当時は幼児だった平太もついてきて、お手伝いとして泥団子を夢中でこねていたそうだ。思い出をたどりながら手を洗い、足の泥を落としていると、表のほうで家の戸があく音がした。

「はて。空耳じゃろうか」加代のいぶかしげな声がし、やがてふたたび戸が閉じられる音が聞こえた。どうやら平太が戻ってきた足音を聞きつけたものの、家に入ってこないので様子を見に出たらしい。裏手に回ったとは思わなかったのだろう。

笠をとり、雨の降る中で顔を洗うというのも変なものだとおもいつつ、平太は顔の泥を落とした。左足は、灰にこもった炭火が疼くように痛い。イワオが元に戻っても、これでは畑に出られないぞと、平太は暗澹たる気持ちになった。

納得は行かないまでもとりあえず泥を落とすと、笠を脇に抱え、左の足をかばいながら、平太は家の表に回ろうとした。と、そのとき。

「イワオや、イワオやい」家の中から、あやすような姉の声が聞こえてくる。「ほんにいい男だねぇ、イワオは。ほうら。もっといいところを、見せておくれ」

はて、と平太は思った。イワオを相手にいったい何を言っているのだ、おねえは。雨に閉じこめられたので、退屈しのぎにイワオを話し相手にでもしようというのか。痛む足をそうっとひきずって、平太は明かり取りの木窓から、中を伺った。

◆ ◆ ◆

加代は馬屋の柵囲いの中にはいって、イワオの足元に膝をついていた。平太が見ているとも知らず、姉はイワオと話している。

「ほんにねぇ、つらかっただろうねぇ。気がついてあげられなくてごめんよ。そのうち、ちゃあんとしてあげるから。でも今は、おねえで我慢しておくれ」

そう言いながら、加代の右手はイワオの下腹をさすっている。優しく、慈しむような動きで、その手は下腹を、いやむしろイワオの後ろ脚のあいだのあたりを慰撫しつづける。なんのまじないかと平太がいぶかしむうちに、イワオの後ろ脚のあいだから、黒い棒がぬうっと伸びてきた。

「いい男、いい男ぶりじゃ」加代はその黒い棒を慈しむように撫でている。「なんとねぇ、こんなにいい男は、おねえ、見たことないよ」

その棒を見つめる姉がどことなくうっとりとしているように思えたのは、平太の気のせいだろうか。馬臭い寝藁に膝をついたままの姉は、その黒いのに頬ずりしかねない様子だった。

頬ずりどころではなかった。加代はいきなり着物をもろ肌に脱ぐと、子供の腕ほどもの長さに伸びたその棒を、ぐぐっと自分の乳房に押しつけた。日に焼けた顔や手に比べると、おねえのその胸は白く輝いて見える。

「どうじゃ、やわこいじゃろ。つきたての餅のようにやわこいじゃろ、おねえのちちは」加代は両手を使って、イワオの棒で己の胸をかき回した。「おまえがお嫁をもらっても、おねえのようなやわこいちちには会えぬじゃろうなぁ。今のうちにたっぷり堪能するがええぞ」

平太は目眩がした。おねえの白い肌が放つえもいわれぬ匂いがここまで漂ってくるようだった。初めてみるおねえの乳房は、陶器のように滑らかで、美しかった。そして、イワオの男根。そうだ、あれは男の、あのモノだ。それを、それを、おねえに、おねえのあの俺が初めてみる白くて綺麗な乳に押しつけて掻き回している。イワオめ。だが男のモノと知って見ると、イワオのそれはなんと巨大で、嫉妬するほどに凛々しく見えるのか。なんとどす黒く、畜生じみた形状なのか。そんな巨大なやつでおねえをいたぶるな。そんな畜生じみたものをおねえに触らせるな。イワオめ。

「ほおら、どうじゃ、気持ちいいかぇ。イワオや、おねえのちちは気持ちいいかぇ」長いだけでなく、びぃんと弾けるように堅くなったイワオの男根を、加代はかき抱くように、両手と胸を使って楽しませた。「どうじゃ、どうじゃ」

加代はまるで別人のように淫らに振る舞っていた。双つの乳房のあいだを下から上へ、上から下へと巨根をなぞらせ、たっぷりした乳房で挟み、こね回す。先端を乳首に押しつけ、先っぽから根本まで両手を這わせ、胸を左右に振って自らなぶらせる。

「ほうれイワオや、おねえの乳をあげような。たんとおあがり。もっともっと、おねえの乳を好きなだけ、ああ、イワオの男ぶりはなんと堅くて大きいのじゃ、おねえの乳をその堅くて大きいのでたんと悦しんでおくれ」そうして加代が胸を押しつけ、乳房を与えつづけるうちに、イワオのものはさらに猛々しさを増してきたようだった。「イワオよ、そろそろおねえの乳は飽きてきたか。それなら、もっと気持ちいいことをしてあげような、イワオよ」加代はついには地面に手をついて四つん這いになると、イワオのために唇で奉仕し始めた。

◆ ◆ ◆

足の痛みも、雨にうたれていることも忘れて、平太はおねえのすることを凝視し続けた。ただ、股間が火のように熱かった。おねえの紅い唇が割れ、濡れた舌がイワオを舐めた。畜生のような四つん這いの格好のまま、おねえは舌をずうっと這わせた。イワオは、楽しそうで、満足げだった。おねえの舌が、イワオの先端をべろりと舐めあげた。もう一度、そして、さらにもう一度と、おねえは舐めた。イワオが気持ちよさそうに大きな息を吐いた。

おねえは小さな口をせいいっぱい開くと、イワオの先端をそっとくわえた。握りこぶしのようなそれはとても口の中に入いるようなものではなかったが、押しつけた口の中で、おねえはさかんに舌を使っているようだった。

ふいに、イワオが荒い息を二、三度吐いた。加代が口をはずすと、イワオの凛とした先端がねっとりとひかっていた。加代の唾液にまみれたイワオは、まるで自分のほうが加代の主であるかのように、堂々と聳え立っていた。

「イワオ……」加代はそっとイワオの先端に顔を押しつけ、口づけた。

びくん、と棒が脈打ち、ほとばしる液体が加代の顔を直撃した。

「イワオぉ……」すがりつくような声で、加代はイワオの名を呼んだ。「イワオぉ、ああ……イワオぉ……」どくどくとなおも注がれる白っぽい液を浴びながら、加代は顔を離そうとしない。「ああ……とっても、いい男じゃなぁ、イワオ……」脈打つイワオのモノに、加代は舌を這わせ、イワオは加代の舌と口中に牡馬の精液を注ぎ、汚しつづける。

平太は足を引きずって表に回ると、戸を開けた。



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