【第4話】第4話


「寝惚けた事を言うでないわ。人間様の雌を犯すだと?なんちゅう罰当たりな事を」

山猿達の見守る中、老猿リオはケンタとギンジを前に、半ば動揺して叱責の声を上げた。

穴交町の西方を覆う小高い山並みのその一峰、栗剥山(クリムキヤマ)。

その山頂近い一隅に、山猿達のその集会所はあった。



集会場とはいっても猿達の事だからそれとわかるような建物があるわけではない。

木々に囲まれた中に多少開けた広場があって、

山猿達の長老であるリオの住いする大木がその付近にあるという、ただそれだけの事だ。

今そこに、二十数グループの山猿の群れが結集していた。



リオの言葉に、ギンジが前に出る。

「それが違うんだ。俺も、実際に人間の雌を犯すまでは考えもしなかったがな、

俺達は知らず知らずの内に、“人間は俺達猿よりもエライんだ”って思い込んでいたんだ。

いや、もしかしたら思い込まされていたのかも知れねぇ」



ギンジの言葉に猿達がざわめく。ことにギンジが人間様の事を、”人間”、と呼び捨て、

女の事を”雌”と言い捨てた事に、強く反応していた。

批判と侮蔑、羨望と好奇が飛び交い、空気をどんより濁らせて、ギンジの気勢を鈍らせる。



「まあ、実際にやってみなきゃ、なかなか納得出来ねぇとは思うがな。

だが一発犯してみりゃ、そんなのはただの錯覚だったんだってみんなもわかるはずだぜ。

人間の雌もただの雌だったってな。突っ込まれて腰を振る雌猿共と、何にも変わりゃしねぇのさ」



「ふん。若造が何でも目新しい物に飛び付きおって。口では何とでも言えるがな、

それでは実際に犯る所を、見せてもらおうではないか」



ギンジはケンタを見た。猿達の注意が一斉にギンジからケンタに移る。

「いいよ。衆人環視かあ。面白そうじゃない」

ケンタはニヤリと笑って答えながら、ギンジより更に前に出て挑戦的にリオに近付いた。



「ただし、人間様の男の目の前でするのだぞ」

リオのその言葉に、ギンジは表情を強張らせた。

「人間様と猿の平等を証明するんじゃからな。人間様の女を屈伏させるのはいいが、

そればっかりでは仕方がなかろう。本当に平等だっちゅうなら、人間様の男から女を奪い取って、

雌に引きずり落とす所を見せてくれ」

その時ケンタの表情は見えなかった。ケンタはただ黙然と、リオの前に立ち尽くしていた。

◆ ◆ ◆


穴交町の西を覆う小山の連なりと、東に広がる平地の町並みのそのちょうど狭間に建つ私立聖フェラ女子学院大学は、

良家の子女が集まっている事で比較的有名だ。

それというのも、開校以来、「自立した女性性の確立」を根本理念として、女性学と経済学に重点をおいた学部構成の元、

卒業生に多く、女性の経営者を輩出している為だった。



もちろん、成功した卒業生達自身が結婚して子供を産み、自分達の娘もかつて自分が学んだ学び舎に、というような事も少なくない。

八重垣綾子は、そのキャンパスの裏手に当たる背の高い塀沿いの芝生で、本を読みながら義兄の光樹を待っていた。

綾子も、八重垣海苔佃煮チェーンの社長令嬢だ、会長の孫でもある。

八重垣海苔佃煮チェーンといえば、創業は江戸時代に溯るという、海苔佃煮業界では言わずと知れた、由緒正しい海苔佃煮の老舗だ。

そればかりでなく、祖父は日本の海苔佃煮を世界に紹介した功労者でもある。

そして綾子の母はその会長の一人娘としてそれらの巨大な財産を受け継ぎ、見事に拡大させた。

今や八重垣海苔佃煮の佃煮工場は海外の各地に点在し、八重垣海苔佃煮の佃煮は世界中の土産物屋やキオスクに並んでいる。

その母が離婚したのは綾子が5歳の時で、6歳の時に再婚し、癌で病死したのは、8歳の時であった。

今は義父が、社長として経営を一手に切り盛りしている。

義父はもともと、母の元で社長秘書をしていて、「八重垣の女社長の懐刀」と言われるほどの切れ者であったから、会社的にはほとんど問題がなかった。

ただ、彼もバツイチだった。彼には当時12歳になる連れ子がいた。それが、今彼女が胸をときめかせながら心待ちに待っている義理の兄、光樹なのである。

一人っ子で多忙な母にもあまり構ってもらえず、寂しい思いをしていた少女が、突然出来た優しい義兄の存在に浮かれたとしても当然の事だったかも知れない。

最初は戸惑いがちだったがそれもつかの間、すぐに本当の兄妹のようになついて、「お兄さまお兄さま」と光樹の後を追うようになった。

そして、内向的で異性の友達を作る事も出来なかった少女が、成長するに伴い血の繋がらない義兄へのその思いを恋心に変えていくのも、また自然の流れであった。

日差しから影で覆ってくれている頭上の木の枝が風に葉をざわめかせた。

綾子がその音に驚いたように、読んでいる本から顔を上げる。黒縁の眼鏡のレンズが太陽光を反射して、一瞬、瞬いた。

綾子はあまり目が良くない。目を悪くしたのは、おそらく本の読み過ぎだろう。眼鏡を掛け始めたのは、中学生の頃だった。

その眼鏡を通した向こうに、南に学舎を見晴るかし、西に山の峰をのぞかせる、いつもと変わらぬ穏やかな風景があった。

門は南東の方にあるが、光樹は西の、山手の方からくるはずなのだ。

約束の時間はまだまだ先だったが、待ち切れない綾子は、もう何度もそちらの方をチラチラと伺っていた。

原則的には、大学祭でもない平時に部外者の人間が構内をうろつくというのは、あまり好ましい事ではない。

まして女の園である。門から堂々と入った所で、見咎められる事はないだろうが、後ろめたい事には変わりなかった。

だが、それが故に、この秘密の逢瀬を、綾子は尚更にワクワクしてしまう。

品行方正な優等生で今まで育ってきた綾子は、そういう他愛もない禁忌を犯す楽しみを、最近、友達に教えてもらって覚えたばかりだった。

山手の裏側は散歩道のような木々に囲まれた小道になっていて、北の、ちょうど綾子が背を向けている塀の向こう側の道路に出られるようになっている。

門を避けてくるならそこを通ってくるはずだった。

◆ ◆ ◆


ケンタは長老リオの指示で、ダーマという子猿に案内され、聖フェラ女子学院大学のキャンパスにやってきていた。ちょうど綾子が顔を向けている方向だが、綾子から見える所よりもずっと奥の方で北の塀の上に乗っていたので、綾子にはケンタ達が近付いてくるのはわからなかった。そもそもこの穴交町では、猿の姿など風景の一部でしかないから、多少目の端に映ったとしても、気持ちがそこになければ意識に残らないのだ。

ケンタ達は綾子に気付かれる事なく、綾子の背後の木の枝に登っていた。ダーマがその綾子を足元に見下ろしながら言う。

「あのメガネの人間様の女の子を犯してください」

「人間様の牡は?見当たんないみたいだけど?」

「もうすぐ来るはずです。あなたも、最初っから人間様の男がいる前で犯るより、犯り始めてからやってくる方がやり易いでしょう」

「へー。好意的だね」

「私はあなたの言っている事がわかりました。犯す女の子の人選は私に任されてますから、このくらいの融通利かすくらいの事はいいでしょう」

「さすが。やっぱ若さかなあ。年寄り連中には理解しにくいって事かあ」

「でも結局は人間様の男を打ち倒さないといけないんですから、頑張ってください」

ケンタは弾みをつけて枝をしならせると、勢いよくジャンプした。

ザザザッ

頭上の枝が不意に大きな音をたてる。綾子はハッとして頭上を見上げた。綾子からはそこに何がいるのかは見えない。

なんだったんだろうと再び前を向くと、そこに一匹の猿がいた。

突然の出現。

息を飲む。

見慣れているとはいえ、これだけ間近に迫られたのは、綾子も初めてだ。そして何より驚いたのは、その猿の股間が、天を突く勢いで激しく勃起していた事だった。

聞き知ってはいたが、固くそそり立っている牡の生殖器官を見るのも生まれて初めての事だった。しかもそれは人間の物ではない。

こんなにも大きいものなのかと、羞じらうよりも、一瞬、驚きに目を見張った。それからハッとしてそこから目を逸らせる。

驚愕、羞恥。そしてその後にきたのは恐怖だった。

いくら目を逸らせようとも、押し付けてくるような牡の欲望の熱した威圧感からは逃れ得ようもない。どこかに立ち去ってくれる事を必死の思いで祈ったが、意に反して猿は徐々に近付いてきた。

伸ばされた毛ムクジャラの手が、真っ直ぐ、白いポロシャツを盛り上げる綾子の大きな胸に向かってくる。それに対して綾子は、抗う勇気さえ持てず、否、逃げ出す事すら出来ず、喉の奥で「いやぁ、いやあ」と掠れた悲鳴を上げるばかりだった。

五本の指に、右胸を服ごとムニュゥッと掴まれ、ムニュムニュと揉み回される。異様な感覚だった。お風呂に入って身体を洗う時に自分の胸を触るのとは、全然違う。

満員電車に乗った事などもなく、今まで痴漢にあった事もなければ、オナニーすらした事もない綾子は、その、初めて味合わされる感覚に戸惑った。

これは猿などに味合わされるようなものではなくて、愛する光樹の手によって感じさせてもらうものなのだ。そう思うと、綾子は、ひどく後ろめたいような、屈辱的な感じがして、それにまた、自分がその手を払い退けるだけの勇気すら持ち合わせていないのが悔しくて、これまで感じた事もないような情けなさを感じた。

その情けなさが、猿に胸を揉まれる異様な感覚と一体となって、綾子の脳の一部に不思議な痺れを生じさせる。

猿は更に近付いて、もう片方の手も使い始めた。両方の胸がぐにゅぐにゅと揉まれる。「白いポロシャツ」と書いたが、正確には、納戸色というのだろうか、青系統の地味な色の柄の入ったシャツだ。それが、ブラジャーもその中の柔肉も乳首も、一緒くたにされて揉みくちゃにされる。

スラリと伸びた脚は、猿のガニ股の足の間にあった。今やほとんど目と鼻の先に突き付けられた怖ろしげな男根は、何とも言えない獣臭を放ち、それ自身が意志ある者である如くに、ビクビクと頭を上下している。

綾子の白い脚を守るのは、茶系のミニスカートとその下の白いパンティだけだった。いつまでたっても義兄妹の一線を越えてこようとしない光樹への、最大限のアピールでもあり、また大学で出来た友達からの影響もあって、最近の綾子は、こういう大胆なファッションが多かった。そして今はそれが、最悪の形で仇(あだ)となりそうだった。

猿は綾子のシャツをまくり上げ、その中に顔を突っ込んだ。

「ひぃぃっ!」

舌が裸のお腹をぺろぺろ舐める。邪まな意志に嬲られる、その堪らない気持ちの悪さ。猿の身体が伏せた形になるので、その邪まな欲望の具現たる堅い肉棒が、脚のスネにぐいぐい当たる。

「は・・・はぅっ・・た、たすけ・・・お、お兄さ・・あ」

脳裏に明滅する、光樹の姿。義兄を呼ぶ声、助けを求める言葉が、襲いくる感覚の波にさらわれて、ことごとく途切れる。

“猿に犯される”

おぞましい予感が、綾子の四肢を雁字搦めにしていた。

獣毛に覆われた片方の手が、シャツの下を這い上り、もう片方の手は太股を撫で回す。胸は解放されたが、何の慰めにもならなかった。

一体、これが猿のする事であろうか。膝やスネに無軌道に頭を擦り付けてくる亀頭の熱さが恐ろしい。皮膚の甚振られている部分が、忌まわしい感覚に“ぞわぞわ”としていた。

太股を撫でる指先の攻撃範囲が、徐々に広がっているような気がする。それは獣の無骨な感触に反して、心憎いばかりに絶妙なタッチだった。指先が近付く度、恥ずかしい部分が脅えたように敏感さを増していく。

もう片方の手はブラジャーを押し上げ、胸の膨らみを直に触り出していた。それと一緒に、頭も上にずり上がってきていて、興奮した鼻息が、ぺちょぺちょと音をたてる舌の動きと一体になって、剥き出しにされた胸の裾野を舐(ねぶ)り上げていた。

人より幾分小さめの猿の頭が、顎の下で右に左に忙しく動き回る。そのすぐ上で、今や隠す術とてないピンク色の乳首が、今しも猿の指に捕らえられようとしていた。

「いやぁ、だ、だめっ、・・・ひん」

望まない快感を強制的に送り込まれ、綾子は一際高く、鳴き声を上げた。

泣き声ではない。鳴き声・・・それは快感に打ち据えられて思わず上げた、綾子のまがうかたなき鳴き声であった。

片方の乳首を淫らな指先に摘ままれ、クリクリと弄繰(いじく)られれば、もう片方は醜く突き出た猿の唇に吸い付かれ、ヌメついた舌で舐めしゃぶられる。

「あっ・・・あ・・んぁ・・・あぁ・・・」

声を出さないようにするなど、不可能だった。神経が勝手に反応してヒクついてる。

猿の身体がずり上がった分、男根の押し当てられてる場所もずり上がり、ネトネトした粘液の軌跡を引きながら、それは太股にまで達してきていた。その堅さと熱さ。いやらしいその形状の柔肌にめり込んでいる様までもがはっきりと感じられる。

股間はパンティの薄布に辛うじて守られているものの、そんなものは猿の気紛れ一つで、今直ぐにでも剥ぎ取れる物だった。その「次の一瞬」に脅えながら、綾子はただひたすら、昼日中のキャンパスで、猿に乳首を甚振られ続けるという、恥ずかしい快感の責め苦に耐え続けるしかないのだった。

樹上の小猿、ダーマは、ケンタが綾子を襲うその様を静かに見下ろしていたが、やがて、スルスルと枝を伝って塀の上に渡り、その勢いのまま自分達がやってきた方向、山のある西の方に駆け去っていった。樹の葉がザザザっと鳴ったので、ケンタもダーマがそこから去ったのに気付く。

首尾よく事が始まったら、ダーマが知らせにいって、リオを中心とする山猿のみんなを連れて来る手筈になっていた。

目下の所は彼らが来るまでの間、この人間様の女を責め続けるだけだ。しかし、ダーマの話では、この人間様の女のツガイとなる男も後から来るはずであった。山猿達が来るまでにその人間様の男が来てしまうのではないかと、それが多少心配だった。ダーマは「それは絶対に大丈夫」と言っていたので、今はその言葉を信じるしかないのだが。

後は、その他の人間様が見つけてやってくる可能性があった。だがそれは、ケンタはほとんど心配していなかった。これまでの経験では、最初の温泉での凌辱にしろ、町猿ロンの為に人間様の家に忍び込んだ時にしろ、彼らは自分達の仲間の女が犯される所を覗くばかりで、助けようとした事は一度もなかったのだ。

おそらく、それは彼ら人間様にとっても興奮する場面で、自分のツガイでもなければ、人間様はそういうのは助けたりしないものなのだろう。ケンタはそう、勝手に思い込んでいた。

「いやぁ、やあぁぁ・・・ぅん、・・あ、は・・・ひぅ、やめぇ、やめてぇぇ」

ケンタの執拗な愛撫に、綾子は顔を覆って弱々しくかぶりを振り、うなされるように拒絶の声を漏らした。しかし力無く開いた太股の間には猿の身体が覆い被さるように居座っていて、シャツもブラジャーもまくり上げられて剥き出しにされた双乳は、指と舌とでもって良いように弄ばれている。

右の胸を揉み潰される一方で、左の乳首を舐め転がされ、またあるいは右の乳首を甘く吸い立てられながら、唾液でヌルヌルになった左の乳首を好き放題に弄り回されるのだ。どこに人目があるかもわからない屋外で、胸を責めたてられるのも恥ずかしく、だが恥ずかしがりながら喘ぐ声は、聞きようによっては甘えているようでもある。

実際、自分の指でない指のその予想も出来ない動きは、一瞬一瞬があまりにも鮮烈な刺激の連続で、乳首がこれほどまでに感じる器官だったとは、綾子は思いもよらなかった。猿なんかに大事な所を触られて、気持ち悪い、という気持ちはずっとあるのに、その猿なんかの指の動きに心地良さを感じている。そしてそれが、綾子には何よりも情けなかった。



助けて・・・助けて・・お義兄さま・・・おにいさまっ・・おにいさま!



心の中ではずっと義兄の光樹を呼んでいる。

しかし助けを求める一方で、こんな所を光樹に見られたらと思う恐ろしさもあった。こんな風に、身体を弄られてピクピクしてる所を。



早く・・・早くきてくれないと・・・本当に、お猿さんに処女を奪われてしまうぅ



光樹は大抵、待ち合わせに10分〜30分くらい遅刻してくる。学生と違って仕事を持っている身ではそれも仕方ない、と、綾子はいつも嘆息していた。だがそれが、今は取り返しのつかない結果を招く事になるかも知れないのだった。せめて感じまいと頑張ってみても、否定し切れない愉悦に休む間もなく襲われ続け、自分の身体の思いの他の淫らさに、綾子は耐え難い口惜しさを覚えずにはいられなかった。

ハタと気付くと淫猿のもう片方の指が、太股の内側を更に這い上り、パンティラインの境界にまで達している。

「あ、だめっ」

小さく悲鳴を上げて、顔を覆っていた手を離し、思わず猿の腕を押し止どめる形につかんでいた。だが、そういう形になったというだけで、快感の為か恐怖の為か、力はまるで入らない。

汗ばんだ掌の中にあった眼鏡のレンズが白く曇って、周りの様子もよく分からなかった。

そのまま中に潜り込んでくるのかと思ったが、そうではなく、二本の指で付け根のラインを辿り、内側から前へ、前から再び内側に潜り込んできてお尻の方へ、そしてまた来た所を後戻って前の方へと、焦らすように何度も往復し始めた。

両脚の間には猿の身体があるので、閉じる事はもちろん出来ない。二本の指の間に挟まれた部分が勝手に反応するような、なんとも言えない恥ずかしさに、綾子は戸惑い身悶えた。

「あぅ、だ、だめ。なんか・・・」

腰の中心で、とろり、何かが蕩ける。

その指は猿自身の唾液でベトベトだった。それというのも、右の乳首を苛める時は左の手を使い、左の乳首を嬲る時は右の指を使っていたからで、唾液でベトベトになった乳首を弄繰(いじく)れば、当然その乳首を弄繰(いじく)っている指先もベトベトになる道理であった。

猿の腕を押し留めようとしてその腕に添えられていた綾子の手も、猿の右手と左手が責める所を交替する時に自然と解かれ、いつの間にか身体の両脇にやり場もなく放り出されていた。

心が快感に流されそうになるほどに、罪悪感がじくじくと膿んで綾子の心と身体を責め苛む。待ち合わせの時間はまだまだ先だった。

爪のほとんどない指が、ぬとぬと軌跡を描きながら汚れた快感を綾子の両腿の付け根に塗り込んで行く。

「く・・・やっ・・んふぅ・・・はぁ・・はぁ」

指の動きが綾子の何かに触れてピクン、ピクンと跳ねる。それを必死になって堪えるので、息が切れた。激しい動悸。いつの間にか額は汗びっしょりになって黒い髪を貼り付かせている。切ないほどの罪悪感。身体が反応する度に、光樹に詫びる言葉で胸がいっぱいなる。

汗びっしょりになっているのは額だけではなかった。鳥肌のそそけ立った腕も、半袖のシャツの裾から覗ける腋の下も、猿の毛だらけの腕が密着しているお腹も、その猿の腕との間で、すっかりスカートが捩れて中を肌蹴させてしまっている下半身も、ぬるぬるした汗を吹き出して日の光にテラテラと濡れ光っていた。

太股の付け根の触られている所から、ぞくぞくした細波が立つ。その二本の軌跡の中心で波頭がぶつかり合うように、触れられてない所で熱い疼きが波柱を立てた。だがその疼きを解消させてくれる刺激はそこにはなく、それはそのままじくじくとした切なさとなって蓄積され、綾子のその部分の内圧を高めるだけなのだ。

だがもっと悪いのは、全くそこに刺激が与えられないわけではなくて、二本の指の間に別の指が垂れ下がり、薄い生地の上からすっ、すっ、とたまに思い付いたように、敏感になった中心線をなぞり上げる事だった。その度に綾子は「あっ、あっ」と体をくねらせて恥ずかしい声を上げてしまうのだが、もとより疼きを解消してくれるほどにはならず、かえって切なさを煽り立ててしまう。

ぴっちり締まった処女の膣道を、とろとろと淫らな汁が流れ出してくるのがはっきり感じられた。そうなると綾子はまた余計に恥ずかしくなってしまう。生唾が溢れ、何度も喉が鳴った。相手が猿で良かった、とまでは思わないが、少なくともその喉の鳴る音の意味を相手に悟られる恥ずかしさだけは免れている。

と、綾子は思っていた。だが実際にはそうではないのだ。免れているのは、相手に言葉で辱められているのを、綾子自身が知り得ないという、ただその事だけだった。

「あれあれー、何、喉なんか鳴らしてー?」

ケンタは綾子の喉がゴクリと艶かしく波打つのを目敏く見つけて、言葉で嬲っていた。意味が伝わらない事は百も承知だが、これはアイブザルの習性みたいなものなのだ。最初は「どうせ伝わんないんだし」と思って何も言わないのだが、だんだん興が乗ってくると、相手に伝わらない事はなどどうでもよくなってくる。

「もしかして猿なんかに触られてんのに、感じちゃってるぅ?んん?嫌だ嫌だっていうわりには、ここんとこがパンティの上からでもわかるくらい大きくなってんだけどぉ」

「いいいぃっ!」

薄布の上からから唐突に揉み潰され、綾子は真っ赤な顔を仰け反らせた。ケンタはその様子を見て嘲笑いながら、唾液を刷り込むように片手で乳肉を変形させ、もう片手で股間を陰湿に責め続けた。

「なんだ、やっぱり良いんじゃん。どれ、どのくらい良いか見て上げるよ」

責める手をそのままに、頭を傾げて綾子の股間を覗き見る。

「うひゃあ、パンティに楕円形の染みが出来てるう。これじゃ、どこにおまんこがあるかモロバレだねえ」

よりくっきりと陰部の形が浮かび上がるように、三本の指先でなぞり上げる。

「あぅううん、だめぇ・・はぁ、はぁ・・・いやぁあ・・・」

ぞくぞくぞく、

なぞられた所から小爆発が連続して起こり、濡れ光る太股に、ピクピクと筋が立った。背徳感で心に痛みが走る。



ああ・・・ごめんなさい・・お義兄さま、おにいさまぁ・・・



「こんなにびちょびちょにしてて、いやぁ、って、何言ってんの?猿に触られんの、そんなにいやなん?それじゃあ、触るのは止めて上げようか」

そう言うとケンタは、両手で太股を抱え上げ、むせ返るような雌の匂いを発する股間に、顔を埋めた。

湿った熱気が、綾子の大切な部分に覆い被さる。生地越しに“ねとねと”と舌が蠢き、綾子の恥肉を掻き回す。

「ああん・・だめぇぇ・・・あ、あ、・・うくぅうっ・・・・

猿に恥ずかしい所を舌で愛撫されているのだと思うと、おぞましくて仕方なかったが、最前からの焦らし責めで切なく疼き続けている粘膜には、同時にその刺激はもどかしくもあった。

「あぅぅ・・・どうしてぇ、・・う・・・くうぅ」

眼鏡のレンズは荒い息で曇りがちだ。目尻にうっすらと涙を浮かべ、真っ赤な顔で喘ぐ。その言葉は無意識の内に出たもので、彼女自身も誰に対してそう言っているのかわかっていなかったが、それは、言うなれば彼女自身の感じ過ぎる身体に向けられたものであった。そして当然ながらその問いに答える声はない。

猿の舌は綾子の想像を越えて、長く、器用で、また強靭であった。左右の溝を交互になぞっていたかと思うと、次の瞬間にはそれは泥濘(ぬかるみ)の中心に布ごと突き立てられた。そして、穿(ほじく)るように中で蠢いていたかと思えば、また引き抜かれ、どうかすると今度は肉芽に絡み付き、尖り立ったそれをしごき立てながら上下に左右に転がし回すのだった。



こ、こんな所を誰かに見られたら、もう、もう生きていけない。ましてそれで感じてしまっているなんて・・・!



頭の中はもう、恥ずかしさでいっぱいだった。だが、そう思えば思うほど、身体は余計に敏感になっていく。反応すまいと思っても、腰が勝手に跳ね上がるのだ。

綾子は身体の中で逆巻く感覚の嵐に翻弄されていた。そのため、周囲の異変に気付かなかった。

西に山、南に学舎を背景とする芝生の広がりのそこかしこに、人工的に造られた茂みが点在している。その茂みの一つから、ひょっこりと猿が顔を出していた。

それと相前後して、他の茂みやその付近の木の陰からも、他の猿達がひょこひょこと顔を出し始める。壁を乗り越えて姿を現す者もあれば、いつの間にか彼女達の背後の樹上に登っていて、上から見下ろしている者もいた。

猿達の動物的なざわめきに、さすがに綾子も異様な雰囲気を感じ取る。そして

「ひっ」

周囲に目をやって、悲鳴を飲み込んだ。

猿達の集団。猿の群れ。

綾子はいつの間にか無数の猿に取り囲まれていた。

たくさんの猿にたった一人で取り囲まれているというのは、もうそれだけで十分、恐ろしい状況だ。しかもその無数の視線は、動物的でありながら動物とは思えないほど淫らな期待に満ちて、綾子の痴態に注がれていた。

二重の恐怖に凍りつく綾子から、ケンタがゆっくりと身体を離す。周囲を一瞥して猿達が揃っているのを確認すると、綾子のミニスカートの中にあった指を、パンティの腰に引っ掛けた。

「さあ、いよいよいくぞお。これが人間様の発情したおまんこだ。みんなよーっく見ててよー」

するりと引き下ろす。抵抗はほとんどなかったが、濡れた股間部分の一部が埋没してて、それが抜ける時に小さな抵抗感があった。

「いやぁ・・・いやあぁ・・」

ケンタの激しく強張った熱い物を太股の筋に感じ、綾子が弱々しくかぶりを振る。

ケンタは身体をずり上げ始めた。するとその、力いっぱい傘を広げた肉棒も一緒に、先端から噴き零す己の粘液と綾子自身のねっとりした汗に滑りながら、付け根目指して上っていく。そして

ぬずずずずっ

ケンタの分身はそのままのスピードで綾子の亀裂を割り裂き、更にその奥へと埋没していった。

「ぁっ、あぁ・・あぁぁ・・・はぐっ!・・んむむ」

肉棒の野太い圧迫を受けて、綾子は絶望とも愉悦ともつかない涙声を上げた。綾子の処女が、光樹に捧げられるべき貞操が、猿の亀頭に突き破られる。心と身体が刺し貫かれる。

ずんと子宮を突き上げる衝撃は、まさに牡の欲望そのものだった。膣の具合をより深く堪能しようとするように、引き抜いては突き込み、引き抜いては突き上げ、何度も何度も刺し貫く。

膣内は、処女の血と愛液でズルズルだった。結合部からは、血の赤を交じらせたピンクの粘液が掻き出されている。

「ん、んっ、く、ふっ、ぅう!んぁ!ん、くぅっ、ふく、」

そのダラダラ垂れる汁の痛ましくも淫靡な色合いは、処女を失ったばかりの無残な傷口を擦り立てられる痛苦と、生まれて初めて味合わされるおぞましい快楽の、異様な混合を示しているかのようでもあった。

◆ ◆ ◆


光樹は大学の裏道にあたる林の小道に入った辺りから、少し小走りになっていた。いつも十分以上遅刻するからといって、綾子との逢瀬を楽しみにしていないわけでは決してないのだ。

むしろ、もうすぐ会えると思うと、わくわくして、居ても立ってもいられなくなってくる。

綾子の母である義母や父の前ではそんな素振りをおくびにも見せないのに、二人っきりになるとぴったり張り付くように甘えてくる綾子が、光樹は愛おしくて仕方がなかった。子供の時から、「お義兄さま、お義兄さま」と、いつも自分の後から追い掛けてくるような子だったが、最近の綾子にはそれ以上のものを感じる。それは例えば、何かを訴え掛けるようにじっと光樹の事を見詰める、少し潤んだような瞳だったり、胸の形がはっきり感じられるほど強くしがみついてくるような、無邪気ともとれるが挑発的ともとれるような行為だったりするのだが、光樹はずっと、「これは兄として慕われてるんだ、それだけなんだ。勘違いするな、勘違いして傷付けるようなマネするんじゃないぞ」と自分に言い聞かせてきたのだった。

二人きりの時の綾子は、光樹にとって、理性が弾け飛びそうになるほどの甘美な罠なのだ。それと知りながら、綾子に「会いたい」と言われると、その誘惑に抗し切れず、こうして、外回りの途中にでも何とか無理して時間を作り、綾子の大学構内にまで会いに来てしまう。

我ながら不甲斐ないとは思うのだが、「綾子が寂しがっているのだから」という自分への言い訳が、彼の気持ちを後押ししていた。

綾子に抱き付かれた時の、膨よかな身体の感触に我知らず思いを馳せていた光樹が、構内の一角に群れる猿の集団に気付いたのは、かなりそこに近付いてからだった。

咄嗟に悪い予感に囚われる。

見回しても、綾子の姿はないし、それに第一、猿達が群れているその一角は、いつも綾子と待ち合わせしているその場所なのだ。

それとも綾子はどこか別の安全な場所に非難しているのだろうか。

光樹は祈るような気持ちでその猿達の群れている方向に近付いていった。

途中で思い付いて、ゴミ籠の設置された塀の近くに寄っていく。ゴミ籠の脇には、一斗缶が置いてあって、そこに猿除け棒が数本立てられていた。猿除け棒は、穴交町の至る所に常備されている。猿の悪戯による被害に常に晒されている、穴交町民の常識であった。

「・・・・・ぅ・・・ぁぁ・・ひぅ・・・」

近付くにつれ、猿達のきゃっきゃと騒ぐ声に混じって、女の、喘ぐような声が聞こえてくる。

「そんな・・・まさか」

胸騒ぎが、一気にマックスに達した。だが、その胸騒ぎはまだ、光樹の中で、漠然とした不安という以上の明確な形をとっていない。

猿が人間の女を犯すなどという事は、まず絶対にあり得ないのだ。だがそうだとすると、この、切れ切れに聞こえる艶かしい声は、一体何なのだろう。

何かの聞き間違いだと心の中で断じて、光樹はその声の正体を探ろうとするように、より一層聞き耳を立てながら、更に近付いていった。

「あっ、あっ、あんっ・・・う、くっ、だ、だめ、おな、おな、か、が・・・は、ぅ、ぅぅゆっ」

声が次第にはっきりしてくる。だがそれでもまだ、光樹は何かの聞き間違いだと、頑なに自分自身に言い聞かせ続けていた。何の聞き間違いかは分からなかったが。

光樹の手にした猿除け棒を見て、猿達が道を開ける。

通常は猿除け棒を見ただけで、猿の方から逃げてくれるのだ。だがこの時、猿達は逃げ出さなかった。

左右に別れた猿達の間に一本の道が出来、その向こうの樹の根元に・・・脚を広げて猿の男根を迎え入れている女の肢体があった。

「か・・・」

衝撃を受けて息を飲む。何かを言い掛けたのではない。息を飲んだ拍子に喉の奥がくっついて、音が勝手に鳴ったのだ。

圧(の)し掛かっている猿の身体の向こうに隠されて、犯されている女の顔は見えなかった。だが、その猿の身体の両脇で、のたうち蠢くすらりとした両脚は、明らかに義妹・綾子の物であった。

漠然とした不安だったものが、明確な形をとって光樹の脳髄を貫く。

「こ、こ・・・猿!!」

言葉、というよりは、悲鳴に近い。光樹は猿除け棒を振り上げ、猿に囲まれた一本道を走り出していた。

周囲の猿達が反射的に後退し、道を少し広げる。それは、暴力に対する脅えの為ではなかった。それは、人間を神聖視するアイブザル達の信仰心からくる、恐れの為なのだ。猿除け棒を振り上げるという事は、「あっちにいけ」という人間様の意思表示に外ならず、それに対して大人しく従う事は、アイブザルにとっては当然の事、という以上に、身体に染み付いた習慣なのだ。

だがもちろん、そんなアイブザル達の習慣など、光樹が知るはずもない。光樹は頭に血を上らせながらも、その一方では単純に、威嚇すれば猿が逃げるだろう、と、

ごく単純にそう思い込んでいた。だから

その猿、綾子を犯していたケンタが男根を引き抜いて光樹に向かってきた時、光樹は思わず怯(ひる)んでしまった。

数メートルの間隔を空けて、一人と一匹が立ち止まる。互いに睨み合い、張り詰めた空気がミシっと音を立てたように感じられた。

光樹には、ケンタの表情が読み取れない。それだけに、何を考えているのかわからない動物の不気味さがある。

その、張り詰めた空気を切り裂くように、ケンタの背後で甲高い悲鳴が上がった。

「いやあぁぁ!お義兄さまっ・・いやあああああっっ!!」

半身を起こし掛けて光樹の姿に気が付き、綾子はそのままの中途半端な姿勢で絶叫していた。

「綾子!」

思わず呼び掛ける。だが綾子は、脅えたように光樹を見詰めるだけで、シャツをまくり上げられて曝け出された胸や、散々に凌辱されて処女の血で汚れた股間を隠す余裕さえもないように見えた。

ケンタが動き出す。光樹のその声で、緊張した空気が解けたみたいだった。くるりと踵を返し、再び綾子に挑み掛かる。

「や、止めろお!」

光樹は一歩足を出して叫んだ。ケンタが振り向く。その足元には綾子が身を竦ませて横たわっていた。

光樹が身動き出来なくなる。下手に刺激すると、どういう行動に出るかわからないと思ったのだ。

綾子はケンタが近付いてくるのを見て、慌てて身を守るように脚を閉じ、身体を縮こまらせていた。ケンタがその顔を跨ぐ。

「ひっ!」

ガニ股の猿の股間を下から見上げる形になり、その禍々しい牡の凶器が予想もしないくらい綾子の顔に近付いた。汚辱と恐怖で頭がいっぱいになる。綾子は引き攣った声を上げて目を瞑り、顔を横に向けた。

一方のケンタはそんな綾子に頓着した風もなく、閉じ合わされた太股に両手を掛ける。そうして、その僅かな透き間に頭を捩じ込み出した。

「ひぃー!やめぇ、やめてぇぇ!!」

恐怖で動けない綾子だったが、さすがに光樹の前だと思うと、じっともしていられない。膝から下の脚をバタつかせて抵抗した。だがそれでも、猿を興奮させる事を恐れて思い切った動きにはならない。

「ああっ・・・!」

猿の頭を挟んで太股を強引に抉じ開けられ、綾子は悔し気な声を漏らした。

光樹から見ると、綾子の折り畳まれた脚の間から猿の顔が覗いている。そしてその猿の顔が、上目使いで光樹を睨みながら、下に降りて行った。

「あぁっ、くっ、ダメッ」

猿のドーム状に盛り上がった唇がてっぺんからめくれ、内側の赤い肉を見せて“どろどろ”に汚れた綾子の秘部に触れる。ピクンと跳ねた綾子の白い脚が、まるで陸に上げられた白魚のようだ。

光樹の目の前で大切な部分を辱められ、しかもその舌の動きに感じてしまっている自分の浅ましい身体が、綾子は許せなかった。だが、ぱっくりと割れた媚肉は、強靭な舌に舐め擦られると、綾子の意志を無視して勝手に戦慄(わなな)き、甘い細波を起こして腰の神経を揺さぶるのだ。

「はぁ、だめぇ・・・はぁ、ちがうのぉ・・・だめぇ」

うわ言のような声ですすり泣く。その顔に、処女の血で汚れた男根が押し付けられた。

顔を跨れて、股間を舌で責められている。それは、シックスナインの態勢であった。ケンタの方でその気がなくても、亀頭が自然と綾子の頬や首筋や唇を突き回すような位置にくる。ましてケンタには完全にその気があった。

ベタベタに汚される顔、そして眼鏡の視界。その汚辱感に耐え切れず、唇を固く引き結んで顔を横に向けた。その顔を、毛ムクジャラの手が強引に仰向かせる。万力のような力で顎を捕まえられると、口を閉ざしておく事は出来なかった。眼鏡が僅かにずり上がる。朱唇が開く。ケンタの腰が下がる。肉棒がその唇を更に押し広げ、頭を捩じ込ませてきた。

「ふむんんんっ!」

肉棒の重い感触とともに、汚辱に塗(まみ)れた、生臭い、嫌な味が口一杯に広がる。

舌に染み込む、初めての牡の味。初めての、男の舌触り。これが自分を犯した猿の器官かと思った。自分はこんなとんでもないものに、お腹を引っ掻き回されていたのかと思った。

顔に近い分、余計に屈辱を感じる。いや、顔に近いのではない。顔そのものを犯されているのだ。

ケンタにとって、多少歯が当たるくらいの刺激は何でもなかった。構わずケンタは、綾子の顔が自分の腹の毛の中に埋まるほど深く、綾子の口の中に突き入れた。そしてまたゆっくりと引き抜いては、ぬむむむっ、と押し込む。

「んうーっ、んむうう」

顎を掴んでいた手はもう離れていたが、膝と足に挟まれて、顔を背ける事は出来なかった。これ以上ないというくらい思いっきり男根の逞しさを感じさせられる。しかも、とろとろに蕩けた下半身の中心を、緩急自在の舌使いに嬲られながらだ。息苦しい息遣いにも、甘い熱がこもらずにいられない。

光樹の体内を巡る血が、嫉妬で一気に“ぐうっ”と赤黒く濁った。

「う、うあああああっ!」

目を剥き、我を失って、光樹は再び手にしていた棍棒を振り上げていた。ケンタも飛び上がるようにして身体を起こし、綾子から離れて光樹に対峙する。

綾子はつかの間解放された。だが、上気した頬ではぁはぁと喘ぎ、茫然自失したような精神状態からなかなか脱し切れなくて、逃げる事など念頭にも思い浮かばなかった。もっとも、これだけ周りを猿に囲まれていては、とても逃げ出す事など出来なかっただろうが。

一旦は我を失った光樹も、ケンタにまともに睨まれるとまた動きが止まってしまった。だが立ち止まったその場所は、さっきより着実に綾子の方に近付いている。

睨み合いの時間は短かった。光樹が動きを止めたと思うと、ほとんど直ぐに、ケンタはまたも後ろに下がり、光樹に背中を見せて綾子に覆い被さった。

「や、やめてぇ、もう、あ、わはあぁん」

光樹のほとんど目の前で、猿の肉棒が綾子を貫く。と同時に、綾子は奇妙な声を上げて、その刺激に応えた。

それは、光樹の耳にも明らかな、雌のヨガリ声であった。肉の喜びに、身体が勝手に反応しているのだ。制御出来ないからこそ、奇妙な鳴き声のような声になる。少なくとも光樹にはもう、そうとしか思えなかった。

「た、たす、はぅん、たすけ、て、たす・・・、うふん、たす、け、んくむっ、ひくう・・・」

上下に打ち降ろされる猿の尻の下で、いっぱいに開かされた綾子の股間が悶え狂う。口では助けを呼びながら、しかし獣の勢いで“ずぼずぼ”と何度も突き刺されるのに調子を合わせて細かく腰を跳ね上がらせるその様は、あたかも彼の欲望を迎え入れているかのようにも見えるのだった。

怒りで脳が煮え立つ。次の瞬間には、光樹はケンタに襲い掛かっていた。もはやケンタが睨んでも、両者の間に立ち止まるような空間はなかった。ケンタの方にしても睨み付けて威嚇するようなつもりは毛頭ない。

振り降ろされた猿除け棒をケンタが紙一重で躱(かわ)すと、その棒の落ちて行く先に綾子の、シャツをめくり上げられた無残な姿があった。「ひっ」と肝を冷やして光樹の勢いにブレーキが掛かる。そこに隙が出来た。

ケンタが光樹の手から、易々と猿除け棒を奪い取る。しまったと思った時にはすでに遅かった。強烈な一撃が光樹の背中を打ちのめす。

「くふっ」

息が止まるほどの衝撃だった。痛い、というより、苦しい。手加減のない暴力に、世界が揺動した。更に二打目が右肩に加えられる。筋肉の中の、力を込める事を伝える神経が寸断されたように感じられた。三打目。四打目。殴られる度に、世界が二重三重にダブり、筋肉の神経がぶちぶち切れて行くみたいに段々と、身体が言う事をきかなくなっていく・・・

「や、やめてっ。やめてぇー!」

綾子は絶叫のような悲鳴を上げた。

「おら!おらッ!おらあ!」

ケンタがキーキーと怒鳴りながらめちゃくちゃに殴り付ける。それでも頭を狙わないのは、人間様を殺さないようにする為だった。頭など狙わなくても、反撃する余裕など、その人間様にない事は誰の目にも明らかなのだった。

誰からともなく、猿たちが一匹、また一匹と立ち上がる。

人間様が、猿に圧倒され、地面に倒れ臥せられ、牡雌揃っていいように嬲り回されているのだ。

それは猿達にとって、歴史的な瞬間と言って良かった。ある者は信じられない思いで呆然とその光景を眺め、またある者は感動をもって心に喝采を叫ぶ。漠然とした不安を覚える者、自分が何に支配されていたかを悟り、一人静かに頷く者。受け止め方はそれぞれだが、少なくともそこにいるほとんどの者が、新しい時代の到来を予感していた。

光樹は気が付くと、腕を地面について身体を支えていた。感覚はほとんどの部分で鈍化している。どこを殴られ、また今自分がどういう状態なのかもわからなかった。身体を支えていた腕がガクッと折れ曲がった時も、頭が地面に落ちる感覚に混乱するばかりで、何が起こったかもわからなかった。

昼間の熱をこもらせた柔らかい芝生に頬を付けて、顔が青い匂いに包まれる。這いつくばった視界の中で、自分を殴り付けていた猿が綾子に近付いて行くのが見えた。

してみると、自分はもう殴られていないらしい。自分はもう許されたのだろうか。

綾子が泣いている。何を泣いているのだろう。自分を呼んでいるようにも思えるが、周囲の雑音と一緒になって、声が奇妙に遠い。

猿は膝で綾子の顔を挟み、器用に腰を送って男根を綾子の口に差し込んだ。とても自然に、まるで規定のプラグ差し込み口に、黒いプラグを差し込むように。男根が近付くと、綾子の口が勝手に開いたようにも見えた。

血管を浮き立たせた黒いプラグが濡れた差し込み口に出たり入ったりしている。肉棒のヌメ光る幹が、丸い輪になった唇と、毛に覆われた下腹部の付け根の間で、ヌップヌップと垣間見えた。

ほつれた髪が汗にへばり付いていた。赤く染まった頬がへこんでいるのが堪らなく淫靡だ。眼鏡を掛けたままでいるのが、普段の綾子の真面目さや清楚さを思わせて、そのギャップで余計に淫靡さが際立つのだ。

猿の男根を咥え込んで、ここまで淫靡な表情を見せる綾子が、光樹は憎らしくさえ思えてきた。

猿が身体を屈めていく。意図する所は明らかだった。またシックスナインをしようというのだ。しかし今度は光樹の方に目などくれなかった。閉じる事を忘れた膝がより大きく左右に開かされ、その間に猿の頭が覆い被さる。

「んむぅう・・・ふんっ、・・んふ、んふんん」

太股に筋を浮かせて脚を踏ん張り、腰を跳ね上げ、綾子の身体は激しく反応はした。それとも、抵抗しているのであろうか。

抵抗している?何に?秘部を猿の舌で引っ掻き回される快感に?

その部分が見えないだけ、綾子が暴れれば暴れるほど、余計にその部分の蹂躙される様がまざまざと思い浮かべられた。普通なら見えないはずの膣の中の様子までが見えてくるようだった。

桜色の襞が舌に弄ばれる様はまるで卵を溶いたユッケを思わせる。そしてその肉の花びらの複雑に絡み合う中を強引に押し広げ、更に奥へと侵入すれば、感じてしまうのを必死に耐えるように、赤い膣壁がヒクつきながら“きゅうきゅう”と舌を締め付ける。

しかもシックスナインだ。

下半身を舌に責められる一方で、綾子の美しい顔が、猿の生殖器を口いっぱいに頬張らされて滑稽に歪められている。

それは光樹の絶望と嫉妬を掻き立てると同時に、光樹自身の牡の器官を、激しく刺激する光景でもあった。

右に左に打ち振られる柳腰は、抗っているのではなく、堪らない心地にムズがっているのだ。

「ほらほら、彼氏が見てるってのに、いいの?猿のチンポ咥えて腰なんか振っちゃって、浅ましーい。ほら、ほら、おまんこ堪んない?おまんこ堪んないんでしょ?なんか挿入(い)れて欲しそうに、ほぉら、ほぉらあ、こんなにパクパクさせちゃってー」

ケンタはその態勢で散々に嬲り尽くすと、態勢を変えるべく身体を起こして綾子の脚を引っ張った。綾子の身体が90度、回転する。光樹の方から、綾子を、横から見れるようにしたのだ。一瞬、目が合う。虚ろになりつつあった綾子の目に、ハッと正気の色が映り、その瞬間、綾子は反対方向に顔を背けていた。

綾子の痛みが、そのまま光樹に対する拒絶となって映る。それは、汚れた自分の身体を愛する男に見られたくないという、一つの愛の形ではあったが、光樹にとっては、もはや自分には綾子を救う事が出来ないのだという、絶望の認識でしかなかった。

救いたくても、綾子が拒絶する。もう、昨日までの自分達には戻れない。

ケンタはその綾子の片足を抱えて横を向かせた。一旦背けた顔がまた向き合ってしまう。それでも綾子は、顔を反対側に向けるよう首を捩じ曲げて、光樹の目から必死に顔を隠した。

抱えられた脚が折り曲げられる。もう片方の地面に延ばした方の脚が、ケンタの脚の間に挟まれ、剥き出しにされた尻が、ケンタに横抱きにされる格好だった。その状態でケンタは、腰を押し進めた。

ぐにゅにゅりゅりゅ

歪められた亀裂を押し広げて、亀頭が潜り込む。

「ああぁぁっ、」

股間から腰全体に広がる喜悦の波に、綾子は仰け反って声を上げた。隠した顔がいとも簡単に光樹の目の前に引き戻される。

どんなに外殻を理性の鎧で守ろうとしても、身体の中心に攻撃の槍を突き立てられては、抗いようがなかった。

ずっちゅ、ずっちゅ、じゅっぷ、じゅっぷ、

「あぁ!あひ、ひん、ダメ おか、おかしく、なっちゃうっ、ひ、ぃい、ひはっ」

抜き差しされる度に瞼の裏に白い火花が散って、身体が勝手に跳ねるような動きをしてしまう。

これが本当にさっきと同じ物なのかと思うと、驚愕せずにはいられなかった。さっき挿入(い)れられた時とは全然違う。まず、中で当たる所が違う。否、形すら違うような気さえしてくる。反り返った亀頭が強引に膣肉の側面を擦り、不自然な形に押し広げるのがはっきりとわかった。アソコがパニクったようにしがみ付き、肉棒の動きを止めようとするようにきゅうきゅうと締め付ける。

「やぁ、やああ、こわれる、こわれるっ・・・」

恐ろしいほどのスピードでどこかに押し上げられているみたいだった。両手がしがみつく所を求めて右往左往する。そして、どうしようもなくなり、綾子は芝生を握った。

「だめっ、イクっ、おにいさまっ・・・!」

ブチブチと芝生が毟られる。脚が突っ張ろうとして小さく痙攣していた。だが、片方は折り曲げられて押さえ込まれている。その分、靴に包まれた足の爪先がグンと反り返った。

「おお、締め付ける締め付ける。淫乱な人間のおまんこが、僕のチンポが気持ち良いっていって締め付けるよお」

言いながら、綾子がイッてるのにも拘らず、ケンタがガシガシ腰を打ち付け続けるから堪らない。

「あ、あ、だめ、うご、動かないで、あ、あっ、死ぬ、死ぬ、すごい、へん、ヘン、へん、なトコに、あたって、あたって、なかが、なかが、あやこの、なかが、すごい、しぬ、やめ・・・っ」

綾子は股間から脳天に突き抜ける衝撃と、吸盤のように吸い付こうとする己の雌の器官が生み出す苛烈な快感に、身も世もなく翻弄され、瞬く間に絶頂に押し上げられた。

痙攣が激しくなり、ガクンガクンと身体が、身体を折る様がまるでエビのようだ。

「おおお、凄い・・・さすが、人間の、雌だよお。凄い、締め付けて、吸い付いて、タコの吸盤の中に、突っ込んでるみたい、吸い付いてきて、くう〜、中でうねうねしてるう」

蜜壷が与えてくる厳しい快感に急かされるように、ケンタはぐっちょぐっちょと抜き差しするスピードを上げていた。だが、牡に厳しい快感を与えるほどに、その分余計、いや、それどころかそれ以上の熾烈な快感となって、綾子自身にも跳ね返ってくるのだ。

「いひいぃぃ、ひぬうぅ、らめっ、らめっ、たひ、たしゅけて、はひっ、はひっ、ひは、いは」

気持ち良いなどというレベルを遥かに越えて、天も地も何も分からなくなるほどの強烈な刺激の嵐に揉まれ、綾子は目を白黒させて暴れ出した。とはいっても、下半身はケンタに仕留められているから、上半身だけがドタンバタンと地面を跳ね回り、まるで捕まえられた魚が漁師の手の中で必死に逃げようともがいているようだ。頭を何度も芝生に打ち付け、眼鏡が歪んだ。

その間にもケンタの攻撃は更に激化する。

「あい、なに、なに、なか、なかれ、お、お、おおきひ、おおひいぃぃ、らめ、らめぇ、すご、しゅごひ、おほ、おほひいのぉ」

緊迫したものが急激に増してきていた。そしてそれは、見ている光樹や猿達にも、はっきりと感じられるものだった。

「やめろ・・・やめてくれ、やめてくれぇ」

うわ言のように呻く。だが、地面に押し付けられた光樹の憤ったモノは、ズボンの中で熱く脈打っていた。

「ひぎぃいいぃぃい!!」

ケンタが腰を密着させて、一際深く根元まで埋め込むと、綾子もそれに合わせてぐいぃっ、と背を仰け反らせ、見ている方が恐ろしくなるほどの凄まじい痙攣を始めた。

びゅぶ、ぶりゅぶりゅぶりゅ!

「いぃー!ぎぃー!いー、いー、いー!」

子宮に響く重い濁音が、綾子の身体までをも振動させているかのようだ。目を剥いて虚空を睨んでいるが、口の端から涎を溢れさせているその表情から、何も見えていないのは明らかだった。

突っ張るだけ身体を突っ張らかせると、もうそれ以上はムリと言わんばかりにピタリと停止する。だがその間も膣内にドクドク注ぎ込まれ続けているのだ。

もはや光樹には、怒りも、絶望も、己に対する無念さも、もう何もなかった。ただぽっかりと、魂をまるまる抜き取られたようなぽっかりとした喪失感に囚われて、ただそれを眺めているだけだった。

大量の精液が子宮に注ぎ込まれる。猿の子種で子宮が満たされる。溢れ返って肉棒と膣内の隙間を押し広げ、逆流し、そしてそれは、歪んだ輪の形になった結合部の境からも溢れ出していた。白い欲望の濁流がマグマのように太股の付け根を覆う。

ケンタは顔を上げて猿達を見渡した。小猿のダーマを従えて、長老のリオが近付いてくるのが視界に映る。

ケンタが腹に力を込めて最後の一滴まで膣内(なか)に注ぎ込むと、綾子はそれに応えてビクビクと身体を震わせた。だが彼女の意識はすでにそこにないのだ。ずり落ち掛けている眼鏡を直す事もせず、事切れたように横たわる綾子から、ずるり、男根を引き抜いて、リオを迎える。

リオの顔に、もはや疑いの表情はなかった。リオの口からケンタに送られる最初の言葉は、果たして慰労であろうか。それとも賛辞であろうか。

綾子の股間を塞ぐケンタの精液は、空気に触れて早くも交尾栓を形成しつつあった。だが彼は、やがて直ぐに、その己の交尾栓を自ら引き剥がさねばならなくなるだろう。なぜなら、ゆっくりとした足取りでやってくるリオの股間には、老猿とは思えぬ勢いで激しくいきり立った男根が、歩くにつれてゆらゆらと揺れていたのだった。



[目次] [第3話へ] [第5話へ]