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2008/07/13(日)

ようやく読了>「罪に濡れたふたり」。全9巻。なかなか良かった。

このマンガ、だいたい半分を折り返すあたりから登場人物がどいつもこいつもヤバイ心理状態になってきて、普通ありえないような行動を平気でするようになってくる。ほとんどメンバー固定で話を進めてるからある程度仕方ないのかも知れないけど、はっきり言ってインフレバトルだな、これは。てか、常識を持ち出して諦めさせようってのは物語の最初のほうで終わってるシチュエーションなので、中盤以降は「如何に姉弟二人の邪魔をするか」がメインの話になってくる。「如何に」っても常識とか倫理とかはすでに効力無いのはわかってるので、いろいろと手の込んだ策略をもって邪魔をすることになる。というわけで、邪魔するほうも常識じゃ考えられないようなえげつない手段を取り始め、それが通用しないとさらにエスカレートしたえげつない手段を……そしてインフレバトル突入。

このマンガで爆笑&もっとも共感を覚えた箇所。第6巻の安藤のセリフ「……どうしてだよ。どうして誰もやめないんだ」

いやはや、まったくだ。(^_^; このマンガの登場人物は誰1人として、自分の恋愛を「あきらめない」。主人公二人は、まあ仕方ないとして、恭子、和樹、安藤、……おまえら絶対あきらめないのな。普通あんな変態姉弟だったら百年の恋も速攻で醒めるだろ。なのになんで誰もあきらめないんだ。あきらめたら話が終わっちゃうとかは言わない約束ですかそうですか。

そうやって周囲からの邪魔がエスカレートしていく中、姉弟の性行為もなにげにエスカレート。「避妊は」「禁忌」とか。そうか、それまではちゃんと避妊してたのね……とか過去のあれこれに納得してる場合じゃない。このシーン、確実に生だろ。なんてこった。絵では直接描写いっさい無しなのに、ぬぷぬぷな擬音が脳内に充満するのは私だけか。

それから第9巻の p.251〜p.252 のシーン。個人的にはこれがこのマンガのクライマックス。

「もし恭子さんが由貴と姉弟だったら? 今みたいに好きになった? それとも――――諦めた?」

「そ……んなの決まってるじゃない。有り得ないわ。私は恥知らずじゃないもの」

「そんな……薄い愛情で、今まで邪魔してたの……?」

こういう論法を持ち出されたら反撃不可だよな。「諦めた」と答えれば「愛情が薄い」と切り捨てられ、かといって「諦めない」と答えれば二人の関係を非難する根拠を失う。「諦めない」と答えて、かつ、「女としてライバルと見なす」と言えば戦い続けることは出来るが、それだと単にあきらめの悪い粘着女になっちゃうしなあ。というか元々どう見てもあきらめの悪い粘着女だったんだが、その粘着っぷりを正当化する根拠が「おまえらのは近親相姦だから倫理的に許されない!」だったわけで。まあ、きれいにトドメを刺したわけですね。うん。

さて、ようやく読み終わって、一息つきながらぼんやりとこの物語を思い返していると……はて? なにやら妙に……足りないような?

なんだ? 何が足りないんだ? 話はけっこうおもしろかったし、エロさも(心理的演出がメインとは言え)充分あったし、それでいったい何が足りないと言うんだ?

脳内データベースで連想検索。近親姦もの。ストーリー構成要素および状況描写。…………連想中。

うん、もしかして「背徳感」かな? いや、むしろ「禁忌感」とでも言うか。

そもそもが「姉弟」って設定だし、作中でもその点はことあるごとに問題にされてはいる。「姉弟って聞いたけど、まるで恋人同士」とか取りざたされたり。だからそれなりに「禁断の恋」というスリル感はある。

しかし読了して振り返ってみると、これらは「バレたらヤバイ」ではあっても「姦ったらヤバイ」では無いのでは?

ま、ある程度これは仕方ないかもしれないけどね。「姦ったらヤバイ」ってことは、裏返せば「一度姦ったら何度姦っても同じ」ってことで、姦った後は新鮮味が無くなってしまう。これだけの長編なわけだし、実際ストーリー序盤では「あたしたちやっぱり姉弟だし」みたいな感じで付いたり離れたりをやってた。が、そんなシチュエーションはすぐに消費しちゃって、中盤以降にストーリーを支えるのは「バレたらヤバイ」「バレたくなきゃ別れろ」「バレても別れたくない」「なんだとぅ(^w^#」以下インフレバトル、な展開になるわけだ。

とは言え、「家族とセックスしちゃう禁断の味」っていう背徳感むしろ禁忌感が薄いように思えるのも事実だなあ。そう言えば、家族的描写って少なかったよな。てか由貴って家族してないじゃん。離婚してた父親死亡 → 由貴が家族に戻ってくる → 母親は最初からニューヨークに単身赴任中 → 由貴が勝手にアパートで一人暮らし開始、って第1巻の前半だけでもう家族バラバラ。こいつら全然家族として暮らしてねーぞ。

血縁はあっても家族になってない。というか、好きになった後で勝手に血縁が判明して、頼んでもいないのに禁断の恋にされてしまったってストーリーだしな。

そうか、だから背徳感がイマイチ薄いのか。主人公二人にしてみれば、お互いに対して家族とか血縁とかいう意識を持ちようがない。家族として生活を共にしてきたわけじゃなし、思い出も何も無いのに、家族と思えってほうが無理だ。二人にとっては単に男と女。好きになったその後で血縁という障害物が湧いて出た。ただそれだけ。

という状況である以上、読んでる側としてもこの二人を「家族」とみなすのが難しく、「うっわー、こいつら姉弟で姦ってやがる」という下半身をダイレクトで呼び起こす情感がイマイチ湧いてこない。むしろ「姉弟だったのは残念だったね」「諦めないで頑張ってね」という、ほとんど善意の感想しか持てん。

うーむ、近親姦モノとしては、むしろその背徳感むしろ禁忌感こそが一番オイシイところなんだが……。

そう言えば、以前に感想書いた“ふうたまろ”の「愛・家族」。どんだけ以前だったかもう忘れたし探すのも面倒なんで探さないが、これって相手が「義理の妹」「義理の母親」なのにもかかわらず、家族的情感は充分あるんだよな。まさに「一緒に生活してる」って生活感がある。

一緒に生活してて、母という役割、兄と妹という立場、家族としての構成がくっきりしている。母のほうは生活描写ほとんど無いけど、妹のいかにも「妹」な甘えっぷりは簡潔ながらちゃんと描写してある。血縁はないけど家族。血縁はないけど対象にしちゃいけない相手。血縁はないけど一線は踏み越えちゃいけないよ、という暗黙の了解の存在が明確にされてる。暗黙なのに明確なのか。ややこしい書きかたすんな。

いっぽう「罪に濡れたふたり」は生活描写って……1回きりか? もっと家族的に和気藹々してても良かったんじゃないかと思わないでもない。う〜ん、母親が完全に敵に回っちゃったからなあ。構図としては「主人公二人 vs 全世界(母親含む)」って感じで、しかもこの構図は最初から最後まで変わらない。せいぜい、フレンドリーな敵が途中で退場して、もっと冷酷な敵に変わったくらいだ。

せめて母親が不承々々な共犯者をやってくれてたらなあ。てか、親バレした後ででもいいから、家族で生活すれば良かったのに。そうすれば「二人の仲を認めはしないけど黙認する母親」「二人の仲を黙認することで苦悩する母親」「母親に苦悩を押しつけといて関係をやめられない二人」っていう、背徳感たっぷりな状況も有り得ただろうに。

子供たちの肉体関係を知りつつ、あえて普通の家族として振る舞う母親。親バレを知りつつ、母親の前では普通の家族として振る舞う姉弟。普通の家族として生活しつつ、しかし夜毎に弟の寝室に忍ぶ姉。軋むベッド。かすかに漏れる軋みに気づき、でも目を閉じ耳を塞いで現実を拒否する母親。朝、母親の目を盗んで出がけのキスを交わす姉と弟。うっかり目撃しつつ、何も気づかない振りをして必死に日常を演出する母親。母親にとっては終わり無き苦悩と地獄の日々。それを承知で、でも別れられない姉弟。いつか来るはずの崩壊の日。

いや、でも、それって、ただ単にオマエの趣味なだけでわ?

うん、俺はそういう危ういシチュエーションて好きだな。

そして、ついに現実となる家庭崩壊。でも色々と理由つけてまた偽りの日常に戻ったりとか(ぉぃ。そしてまた母親の苦悩が……って、実は由香を苦悩させて萌えてるだけじゃないのか、それ。

とまあ、読み終わった後でいろいろ妄想をふくらませたりしているわけだ。一粒で二度オイシイとはこのことか(違)。


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