【第1章】


7月中旬のある夏の日。

一台の四輪駆動車が山道をくねりながら登ってきた。

そして、一軒の屋敷が見えた所でスピードを落とし、「さあ、着いたよ」と言って男は車を止めた。

車の後部座席の分厚く重いドアが開き、一人の女が車から降りた。

肩にかかるほどの長さの黒髪と、白いワンピースの上からもはっきりと分かる豊満な胸のふくらみ、

細くくびれた腰回り、はちきれんばかりの双臀の張り、そして、ふくよかなふくらはぎ、細くしまった足首の女盛り美女であった。

夏の強い日差しが眩しく、女は手で庇を作り豪勢な造りの別荘を見上げた。

別荘は太平洋が一望できる小高い丘の八合目ほどの所にあった。

この別荘が、今日からこの女の7日間の住まいなのだ。



遠藤与志子 24歳 フリーター この物語の主人公である。

与志子は高校を入学するが、ろくすっぽ登校もせずに中退した。

学校を辞めてからは、与志子も例外なく大体お決まりのパターンに堕ちていった。

世間一般の皆が想像するパターンだ。

家にも帰らず、友人宅に寝泊りしながら遊びまわる。偶にフラリと家に帰れば親と口論になり、

また家を出て友人宅に転がり込む。そんなことの繰り返しだった。

アルバイトも色々した。パチンコ店の店員から始まり、コンパニオンやら、風俗嬢も一時期していた。

とにかく風俗系は、ほとんどの事を経験した。



「どう、結構立派な別荘だろ」

「借りるのに結構苦労したよ」

男が隣に来て言った。そう、この男と出会った事からすべてが始まったのだった。

この男は、名目上は芸能プロダクションのスカウトマン。と名乗っているが、早い話がAVのスカウトである。

名前は「西山」という、話の上手い痩せ型で女を口説くに事には自信を持っている。

自分で勝手にプレイボーイと思っているが、AVのスカウトぐらいが御似合いの男だ。



「さあ、行こうか」与志子と西山は歩き出した。

「ねえ、言われたとおり本当に手ぶらで来ちゃったわよ」

「いいのよねぇ?」与志子は尋ねた。

「大丈夫、必要な物はすべて用意して有るから。」西山は心配するな。と言う顔をした。

「まず、スタッフに挨拶してから別荘の中を案内するよ」

「スタッフと言っても今日は撮影じゃないので、監督と君のお相手と、その保護者だけだよ。」

西山は歩きながら話した。

「しかし、君のような美人が引き受けてくれるとは思わなかったな」と言いながら

自分の戦果を誇っている様な笑みを浮かべていた。

西山が玄関のドアを開け、「どうぞ」と言って与志子を先に入れさせた。

中へ入ると、畳20畳ほどのフローリングの広間になっていた。



西山と与志子の出会いは、2週間前に遡る。

西山はタバコを吸いながら、目の前を通り過ぎる女達の品定めをしていた。

(今日はパッとしねえなぁ〜)

西山は朝から「これは!」と思う数人の女に声を掛けたが、まったく相手にしてもらえなかった。

西山は左腕に嵌めた金のローレックスを見た。

「11時半か・・・」

「そろそろ漁場を変えるかぁ」

何気なく反対側の歩道を歩く人込みを見た。

「・・・!・・」

ブラウスの上からでも分かる豊かな胸のくらみ、タイトスカートがはち切れんばかりの双臀の張り、西山は目が釘付けになった。

西山は吸っていたタバコを捨て急いで爪先でもみ消し、駆け足で反対側の歩道へ向かった。

西山は息を切らして、女の2メートル程の所まで駆け寄った。

軽くウェーブがかかった黒髪が肩の所まで伸び、鼻筋がきれいに通って情熱的な唇をした美貌の女だった。

西山は呼吸を整え、女の隣へ並び、意を決して声をかけた。

「彼女、映画に出てみないかい?」

女はびっくりして一瞬立ち止まった。

(なんだ、この馬鹿男)女は西山をマジマジと見た。

「驚かせてすみませんでした。私は、こう云う者です。」西山は名刺を渡した。

「よろしかったら、話を少し聞いてください。」

(そうだ、今日はこいつをカモにしょう)と女は思い。

「ごめんなさい。今から食事に行く所なの」と、断るふりをする。

「じゃ、ボクが奢りますから、一緒にどうです?」

(やった。これで昼食にありつける。)女は昼食を奢らせる魂胆で彼について行った。

これが、与志子と西山の出会いであった。

与志子自身、自慢ではないが容姿にはやや自信を持っていた。

胸だって88cmのFカップは有るし、顔でもそんなに悪いとは思っていない。

事実、キャバクラで働いていた時は、その店で1番の指名の多さであった。

しかし、そんな簡単に女優になれると思うほど与志子は純心ではなかった。



近くのファミレスで食事を西山に奢らせた。西山はお腹が空いてない。ということでコーヒーを注文した。

西山の話を聞いて、映画といっても単なるAVだということを与志子は知った。

(どうせ、そんな事だろうと初めからウスウスとは感じていた)与志子であった。

しかし、与志子も遊ぶお金が欲しかったし、風俗系はほとんど経験したがAVだけは今まで経験した事が無かったので、経験してみようと思い、軽い気持ちで「OK」した。

今日、現役の女子大生が平気でお金欲しさに出演する時代だ。

実際、今の与志子にはお金が無かった。

二ヶ月ほど前、働いていたキャバクラで店の女仲間達と上手く付き合えず、店長が引き留めるのを振り切って辞めてしまった。

手っ取り早く大金を手にする為に、ヘルス嬢になろうかと思っていた矢先だった。

「それじゃ、詳しい事は事務所で話しましょう」と言って、この獲物を逃がしてはマズイと思ったのか、

西山は慌ててコーヒーを流し込んだ。



店を出てしばらく歩くと、4階建ての古ぼけた雑居ビルの中に入った。

彼の所属事務所は、このビルの3階に有った。

西山はドアを開け、与志子を中に入れた。

事務所内には与志子と西山の他に男が3人居た。

男達は、一斉に与志子の方を見て、一瞬沈黙した。それから間をおいて

「おお、いいじゃん」「ナイスバディだねえ」

「西山やるなぁ、でも、逃げられない様にがんばれよ」

半分からかい気味に西山を囃し立てた。

与志子が椅子に腰掛けてから西山はゆっくりと内容を話し始めた。

最初はギャラの話から始まり、徐々に作品の中身について話し始めた。

与志子は作品の内容を聞いて唖然とした。ごく一般的なのAVだと思っていたのに、

まさか、そんな変態AVとは想像すらしていなかったようだ。

最初は、「バカバカしい。第一そんな事が出来る訳が無い。それに、現実的じゃないわ」と断っていたが、

話し込むうちに徐々にお金が欲しい気持ちと、本当にできるのかという好奇心と入り混じった

複雑な心境になってきた。

「少し考えさせてちょうだい。」と、与志子は気持ちを整理する時間をもらった。



・・・・・少しの間考えて与志子は出演することに決めた。

断ろうと思えば、断ることは出来た。でも、与志子は断らなかった。

たった1回で、この業界では破格の多額のギャラが手に入る事が魅力だし、それに

「今まででも、何人かのヒヒ爺共を相手にした事はある。どうって事は無い。」と思った。

さっさと片付けて多額のギャラを手にして、この夏はバリ島に行って「男漁りでもやるか〜」と、

気持ちは既にギャラを手にした気になっていた。



別荘で案内された部屋は広間の突き当たりに有り、西山が部屋のドアを開け与志子を先に部屋に入れた。

ソファに座っていた小太りで口髭を生やした男が立ち上がった。

「この方が、今作品の監督の後藤さんです」と、西山が紹介してくれた。

「どうも、後藤です。」

「いや〜、思っていたより良い女だし、スタイルも良い。」

「貴女が主演ならば今回の作品はヒットを保障されたようなものだ。」

「こりゃ、章吉君がうらやましいですなぁ、俺が代わりに姦りたいわい」

「ぐわっはははっ」 と、下品な笑い方をした。

西山が次に紹介したのが、今回の与志子の共演者となる筈だった男優。

「この方が、今回の共演者 スマトラ・オラン・ウータンの章吉君です。」

章吉は飼育員の隣に座って、恥ずかしそうにチラッチラッと与志子を見る。

褐色の毛で全身を覆われ、体長は140cmくらい有りそうだ。

もっと醜い顔をしているかと想像していたが、実際に会って見ると細長い顔にあご髭が生え、

丸くつぶらな瞳をして意外と可愛い顔をしているな、と与志子は思った。

しかし、与志子が想像していたより遥かに身体は大きい。

体格もガッチリしていて、身長でも頭1つ分位しか変わらない。

与志子は少し恐怖を感じた。

そう、このAVが普通でないのは与志子とオラン・ウータンとの絡みの変態物である。

「章吉の育ての親の加治川さん」と、続けて西山が紹介をした。

章吉が生まれた時から親代わりをしていた加治川は、後3日で定年退職する初老の痩せた男だった。

「西山さん・・ちょっと」与志子は、西山を手招いて部屋から出た。

「悪いけど、この仕事下りるわ」与志子は西山に告げた。

「えー、ちょっと待てよ!」

「今さら下りると言われても困るよ」西山は困惑した顔で言った。

「だって、想像していたより身体がデカイし、怖いわ。」

「大丈夫だって、章吉は生まれた時から人に育てられて、人に慣れているから」

「何にもしなくてもいいから、7日間この別荘で一緒に居てくれるだけで良いんだから」

西山は必死であった。ここまで来て下りられたら、自分の首が飛んでしまうと思った。

「・・・・・・・」与志子は黙って下を向いた。

「さあ、さあ中へ入って」西山は与志子の背中を押して部屋に戻した。



別荘の案内を一通り終えて、昼食を取りながら加治川は章吉の生い立ちから餌の分量など、

細かく与志子に教えていた。

しかし、与志子の関心は全て章吉の股間へ奪われていて、何も耳に入らなかった。

そして、皆が食事を取り終えると散会となった。

「それでは、与志子さん、性交が成功するようにがんばって下さい。ぐわはははっ」

と、監督の後藤が、品の無いオヤジ・ギャグをとばした。

与志子は引きつった笑顔を後藤に返すのが、やっとだった。

章吉は加治川から、なかなか離れようとせず、まるで、子供が親から離れるのを嫌がる様な光景だった。

「与志子さん、章吉は大人しいから怖がらなくても良いですよ」と言うと加治川は、すがる章吉を振り切る様にして別荘から出て行った。

「食料などは一応、10日分用意してあるし、何か不都合が有ったらここへ連絡をくれればいいよ。」と西山は、

与志子に携帯電話と連絡先を記したメモを渡した。

「もし、もしかして、君の気が変わって章吉と姦れたら連絡をして欲しい。すぐに撮影に入るから」

「気が変わらなかったら?」と与志子は聞いた。

「・・・・・・何とか撮影の時に誤魔化すさぁ」

与志子はその「誤魔化す」という言葉を聴いてホッとした。

AVの出演はOKをしたものの、いざ実際にオラン・ウータンを目の当たりにしたら、

怖くてとても性交なんて出来ないと思った。

「さあ、リラックスして、加治川さんも言っていただろ。章吉は、怖がらなくても良いって」

「一緒に居るだけで良いから・・・頼んだよ」西山は念押しをした。

「それと」と言いながら、西山は大きな紙袋を差し出して

「服をすべて脱いで、この袋へ入れて」と言った。

「なぜ?」と与志子は問い返した。

「すまないけど、脱走防止の為さ」

「あんたって、最低の男!」

「悪く思わないでくれ、これは社長の命令なんだから」と言った。

「・・・・」

仕方なく与志子は、西山に白いワンピースの背中のファスナーを下げてもらい、

袖口を肩から滑り落とすように脱ぐと服が足元にパサッと落ちた。

与志子の裸を見て西山はゴクッ生唾を飲んだ。

透き通る様に白い肌、豊かな下半身からキュウと細くなった腰。

そして、白いパンティとおそろいのブラジャーが豊満な乳房を覆っていた。

西山は、与志子が服の上から見てもスタイルが良いのは分かっていたが、これ程とは思っていなかった。

(監督じゃないが、俺が代わりに姦りたい)

「パンティとブラジャーも取って」と西山がせかすように言う。

与志子はしぶしぶ隣の部屋行き、言われたとおり全裸になった。

紙袋に服と下着を詰め、ドア越しから西山にぶつける様に袋を投げつけた。

(バカな男達、逃げる気になればカーテンを体に纏ってでも逃げるし、

それに携帯電話を渡してくれたら、友人に迎えに来てもらうことだってできるじゃないの)と心の中で与志子は呟いた。

「7日間いるだけで良いから、本当に何もしなくて良いからネ・・・ネ」

西山は与志子の裸を見てからは、もったいないと思ったのか、何度も釘を刺すように言った。

(あんな、いい女をエテ公が姦るなんてゆるせねぇ)

(しかし、与志子がエテ公に犯され、よがり狂う姿も見たい)

西山は、少し迷いながら玄関のドアを閉めて別荘を後にした。

与志子はドアに向かって舌を出してアッカンべーをした。

与志子と章吉が撮影前にお互いが馴れ合うという目的で、今日からこの山荘での奇妙な生活はスタートした。



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