第2章:だから調教してやる

研修所は貸し切り状態だった。

通常は保養所として使われるこの施設は、私たちの追加研修合宿の間、他の人間は誰一人として来ることはない。今、この施設にいるのは、研修を受けている私たち3人の新人と、研修を行う側である所長と人事課長の、合わせて5人。この5人だけで、人里離れた山の中に隔離されて1週間を過ごすわけだ。まあ、普通ならどうということもないのだろうけれど、私たち新人にとっては恐怖が幕を開けたとしか思えなかった。

所長は厳しかった。本当に、いっさい口答えを許さなかった。ただし、命じられた作業をきちんと達成した時は、きちんとそれを評価してくれた。だがそもそもの命令が厳しすぎるので、それを達成するのは難しいどころでは無い。巧妙にも、所長はときどき比較的簡単な作業を命じては私たちに達成感を味わわせ、そう簡単に絶望に浸れないようにした。もし常に達成不可能な指示を出されていたら、私たちは研修のすべてを単なる罰ゲームと見なしただろう。だが、ぎりぎりのところで達成可能な指示が混じるので、私たちは所長のお褒めの言葉が欲しいばっかりに、常に全力で指示に従い、困難に追いつめられ、苦悩することになった。

研修の初日は、ひたすら掃除だった。自分たちの部屋はもちろん、廊下も会議室も浴室も、とにかくすべて掃除、掃除、掃除。深夜までかかっても、もちろん終わらない。なにしろ人手は3人しかないのだ。所長は、ずっと監督だった。私たちの後ろに立って、そこを見落としてるだの、ここがまだ綺麗になっていないだの、細かいところを逐一指摘する。

あまりに出来が悪いと、体罰が待っていた。その場で四つん這いにさせられ、乗馬用の鞭で尻を打たれる。たいていは1発だけだったが、頻繁にやられると音を上げそうになる。浜緒さんはとろいので、ほとんど10分おきに鞭を喰らっていた。藤堂さんはきびきびしているし、そつがないので、めったに鞭は受けなかった。が、それでも初日に3、4回は尻を差し出すことになった。私自身はと言うと、研修中は下着無しというハンディを背負っているので、必死に働いた。おかげで鞭を受けた回数は、藤堂さんより少ない。が、1度の鞭打ちで3発という目にあったのは私だけだったのも、事実。

2日目は掃除の他に、馬の世話と馬房掃除が加わった。乗馬用に飼われている馬たちを、運動させたり馬房の掃除をするために厩の外に出す。もちろん私たち新人は馬の扱いなど分からないので、外に出す時は所長や課長の手伝いをする程度しかさせてもらえなかったが。意外なことに、課長(つまり、私の父だが)は、乗馬の腕前はなかなかのものだった。そんなこと私でさえ知らなかったが、若い頃は騎手になろうと思ったこともあったとか。

馬の世話をする時間は、数少ない息抜きの時間でもあった。なにしろ、所長が「怒らない」。馬を怯えさせないためだと思うのだが、所長は馬の近くでは絶対に、私たちに怒鳴ったり鞭を振るったりはしない。私たちには、馬が白馬の王子様に見えた。

◆ ◆ ◆

ケチがついたのは、馬を馬房から出そうとしている時だった。本来なら父か所長がいてくれるはずなのだが、その時はどうしたことか、私と浜緒さんの二人きりになってしまっていた。引き綱を取っていたのは、私だった。相手は明るい茶色の毛並みをした牡の馬で、普段は素直な馬、という印象があったのだが……その時は、絶対に言うことを聞いてくれなかったのだ。私は一所懸命、彼を外へ引き出そうとしたのだが、力では馬のほうが圧倒的に強い。どんなに引いても、びくともしない。

「んもう、何が気に入らないのよ」

つい力ずくで引いたのが良くなかった。馬が、ぐい、と体を捻って綱を引き返した。

「きゃっ」綱に引きずられ、私は地面に引き倒された。まだ取り替える前の寝藁の匂いが、つんと鼻をつく。

「だ、大丈夫?」浜緒さんがあわてて馬を抑えに駆け寄る。

「うん、だいじょう……ぶ……?」

私を見下ろしている馬と、眼が合った。興味深い物を見つけたというように、彼はじっと黒い瞳を私に向けている。清らかな、子供のような瞳だった。見つめられていると、なぜか胸が高鳴った。

馬が、ずい、と足を進め、私のほうへ頭を下ろした。「え? ち、ちょっと……!!」馬は下げた頭を私の両脚の間に割りこませると、鼻先をスカートの中へ潜りこませてきた。「やだ、駄目よ……」両手を突っ張って押し返そうとしたが、何の役にも立たない。彼は悠々と鼻面を突き入れ、私の内腿を嗅ぎまわった。

鼻先に生えた剛毛が、私の太腿をちくちくと刺激する。馬が息を吐くと、その強烈な鼻息が私の性器を直撃した。そうだった、私は下着を着けていない。つまり私のあそこは、馬の鼻面にじかに晒されているということになる。冗談じゃない、もし歯を立てられたりしたら……。

馬の眼が、じろりとこちらを向いた。かっ、と顎が開く。「ひ……っ」思わず悲鳴が漏れた。馬が口を寄せてくる。

「あっ……ひいっ……」私の股間を、熱い舌が舐めあげた。「嫌っ……ダメ……やめて、やめなさい……嫌、あ、あぁん……」筋肉に満ちた舌が、まるで触手のようにうねる。湯気が立つような熱い唾液に濡れて、それは私の太腿を、股間を、襞の谷間を蹂躙した。襞が押しひらかれ、最も敏感な部分に舌が押しあてられる。ぬらぬらしたそれが、私を擦りあげる。背中がそりかえる。イヤだ……そんな状況じゃないのに、イってしまいそう。助けて……。

じゅうっ、と何かが溢れたのが、自分でもわかった。押しあてられた舌の上に、私は自分の蜜をこぼしつつ歯を食いしばる。舌先が……ああ、何てこと……奥への道を探している。まるで悪魔のような馬だ。でも、私は逃げられない。腰に力がはいらない。ただ潤々と溢れさせつづけるだけだ。

舌が、膣口をさぐり当てた。

「許して……嫌……嫌ぁっ!!」

「何をしている!?」

はっ、と見上げると、馬房の入り口に、父が目をつり上げてこちらを睨みつけていた。

「あ……課長」振り返った浜緒さんの声には、どこか緊張感が欠けている。気が失せたのか、馬がぷいと顔をそむけ、私から離れた。

「何をしているか、と聞いているんだ!!」

答えられるはずもない。

ちっ、とかすかに舌打ちして、彼は私を見下した。その視線が、私の両脚の間に落ちる。私はあわてて両脚を閉じ、スカートの裾を抑えつけた。馬の唾液で太腿がぬめったが、気にしていられる状況じゃない。それでも、そこがどんな状況になっていたかは、すべて父の目に曝された後だったようだ。父の顔が強張り、表情が消える。

「いいだろう。どっちにしても懲罰が必要だからな。立って外に出ろ」振り返って浜緒さんを見る。「君もだ。二人並べて、鞭だな」

厩舎の外へ追いたてられ、私と浜緒さんは合宿所の玄関前に四つん這いにさせられた。否も応もない。所長と一緒に別の馬を相手していた藤堂さんが、いったい何事かという顔で見ている。私たちを地面に這わせておいて父は所長と話し合い、やがて所長と一緒になって戻ってきた。所長が乗馬鞭を持っている。処刑人のご到着というわけだ。

所長は、先に浜緒さんのほうに鞭をあてた。「尻を上げろ。もっとだ、もっと高く!!」乾いた音がぴしりと響く。「打って頂いてありがたいと思わんのか? ほら、もっと高く尻を突き出せ!!」ぴしり。「そんなに鞭を受けたかったのか? それならもっと喜べ!! ほら!!」ぴしり。

鞭打ちが終わっても、彼女は地面に突っ伏したまま息を喘がせていた。一度に3発は厳しい。本当に厳しいのだ。だが私だって他人の心配をしていられる状況じゃない。次は、私の番なのだ。

所長が、私の背後に立った。

「さて」所長が言った。「お前の番だ。スカートを上げろ」

四つん這いになったまま、私は言われるままにスカートを引き上げてお尻をさらけ出した。下着をつけていないので、肌がじかに外気に触れる。かすかにそよぐ春先の風で、股間がすうっとする。暖かい日射しが皮膚に染み込むようだ。

「馬といけない遊びをしていたそうだな?」ぴたぴたと鞭の先を当てながら、所長が言う。「社畜らしく、畜生と夫婦にでもなるつもりだったか? いいぞ、なっても。いっそ、今ここで交合らせてやろうか?」

「……」

前触れもなく、強烈なひと打ちが振り下ろされた。

「ひ……っ!!」

「聞かれたことに答えんかっ!!」

「い、いいえ……」激痛の中で、かろうじて声を絞り出す。「交合りたく……ありません……」

「ほう?」所長が鞭をひいた気配がした。「だが、まだ股が濡れているぞ」空気を裂いて、鞭が振り下ろされる。

「はうっ……く、うぅ……」痛みが脳天まで突き抜ける。視界が涙でにじむ。

「答えろ。お前の股が濡れている理由は、何だ?」

「あの……それは……」そんなこと、答えられるわけが無い。だが答えなければ、また余分に鞭をもらうことになる。「それは……か、感じたから……気持ちよかったからです」鞭の恐怖に負けて、私は答えた。

乾いた音を立てて、鞭が打ち下ろされた。

「あぁぁっ!! ……っ!!」全身の力を振りしぼって、私は堪えた。顎が震えて、奥歯がかちかちと音を立てた。

「それで仕事はそっちのけで馬の相手か? この畜生が!!」

「も……申しわけ……ありません……」

「馬がそんなに気持ちよかったか?」

「はい……」

ピシーッ、という破裂するような音をさせ、4発目の鞭が私を打った。びくん、と背中がのけぞる。

「もっと馬とやりたいか?」

「はい……っ」苦痛の中で、私には何かを考える余裕などなかった。私はただ条件反射のように、はい、と答えた。

「馬鹿者がっ!!」

5発目。

「いっそ、今、この場で馬と交合ってしまえっ!!」

「はいっ」

6発目。もう肘を伸ばしていることさえ出来ない。地面に顔をつけ、たった1つしかない制服を泥で汚しながら、私は鞭を受けつづけた。

「馬のタネを注がれたいのか? 馬の仔を孕みたいのか、貴様はっ!?」

「はいっ!!」

そして、また1発。

「やめて!! もう、やめて下さい!!」

不意に鞭の唸りが止んだ。それでも私は、土を囓りながら背をえび反らせ、尻を震わせていた。何も考えられなかったし、何も見えてはいなかった。強張った身体からふと緊張が緩むと、その瞬間だけ、そこに苦痛があることが認識できた。突然に鞭の失われた空白の世界で、私は虚しく悶えていた。

◆ ◆ ◆

もしかして、ちょっと気を失っていたのかも知れない。気がつくと私の目の前に所長の足があった。見上げると、所長と藤堂さんが仁王立ちになって、激しく睨み合っている。いったいなぜ彼女が、所長と睨み合っているんだろう。罰を受けるのが怖くないんだろうか。だが逆光になっているせいで、藤堂さんの表情がよく見えない。いや、私の位置からだと、いずれにせよ彼女の顔の下半分しか見えないのだが。そう言えば、なぜか私は地面にじかに寝転がっているようだ。いけない、制服が土で汚れてしまう。これではまた、鞭だ。

起きあがろうとしたが、出来なかった。体に力がはいらない。激しい運動をした後のように、体中が汗でずぶ濡れだ。そして……「あぅっ……くぅ……んっ!!」まるで灼けた鉄板を押しあてられているような感じだ。腰が、いや尻が、まるで燃え上がるように熱い。

「こんなの、いくらなんでも非道すぎます!!」何の話をしているんだろう。「これじゃ、ただの虐待です!! 研修でも何でもないわ!!」

「そうだな。それが、どうした?」所長の手が彼女の顎を掴み、ぐい、と仰向かせた。「教えてやろうか? お前らはな、とっくに落第なんだよ。本来の新人研修を通らなかった時点で、既にダメを出されているんだ。会社としちゃ、むしろ辞めてもらって良いくらいなんだ」

「だ、だからって……」

「黙って聞け!! いいか、この合宿研修はな、お前らに音を上げさせるためにやってるんだ。嫌気がさして会社を辞めるんなら、それで良し。そうでないなら、どんな仕打ちを受けても喜んで受け入れるような、真性の“社畜”になるか、だ。そのための“調教”なんだよ。分かったか!?」

私には、よく分からなかった。要するに、この研修合宿をきちんとやり遂げろということだろうか。

「冗談じゃないわ!!」所長の手を振り払って、藤堂さんがわめいた。「なにが“社畜”よ。人をなんだと思ってるのよ。こんな……こんな研修なんて……私、認めません!!」

「お前に認めて欲しいとは思っておらん」所長はぐいと顎を反らし、見下すように言った。「何をするか、どうするかを決めるのは、こちらだ。嫌ならお前が出て行け」

「……」

「どうした? 出ていくなら今のうちだぞ。さもなければ……」

「出ていきません」藤堂さんは、はっきり言い切った。「でも、非人道的な懲罰は拒否します」

「お前には選ぶ権利など、無い」

すっ、と所長の体が藤堂さんに近づくと、一瞬の後には彼女の手をねじり上げていた。「あっ!!」短い悲鳴が上がり、あっという間に藤堂さんはその場に抑えつけられた。「素直に辞めると言えば良かったものを……会社にとって、お前がどの程度の存在なのか、これからたっぷり教えてやる。さあ、来い!!」

「は、離して!! 何するんですか!! きゃっ!!」

もがきまわる藤堂さんの横っ面を、所長は無造作にはり倒した。襟首を掴み、立ちあがる間も与えずに地面の上を引きずっていく。そして引き綱を使って、散歩道の脇に立てられた柵に彼女の両手を縛り付けた。引きずられたせいで、せっかくの可愛らしいピンクの制服が土に汚れてめちゃめちゃだ。その汚れたスカートに、所長の手がかかる。何をするかと思う間もなく、所長はスカートを引き下ろした。藤堂さんの下半身が剥きだしになる。だが、それで終わりではなかった。所長はさらに、汚れひとつ無い、真っ白な下着に手を伸ばした。

骨太の無骨な指が、柔らかい薄布の縁を掴む。無造作に、しかし有無を言わせぬ強引さで、その手が下着を引き下ろす。脱がされた瞬間に、弾むように震えながら丸い尻が姿を現した。

「何を……何をする気なの……」さすがに声が震えている。

「この状況で、する事と言ったら決まっているだろう」以外に豊かな藤堂さんの腰を、所長の両手が抱えて、持ちあげる。「お前に仕事をさせてやる。この保養所の資産管理の1つを、な」

「え……?」

「馬は会社の所有物だからな。その馬の“繁殖”を手伝ってもらおうか」

その言葉の意味ははっきりしていたが、私はまさかと思った。藤堂さんをあんな状態にしている以上、他に起こりうる可能性は無い。無いはずだ。だが、それにしても……。

「いや……いやぁぁーーーっ!!」

戒めを逃れようと身をよじり、声を限りに藤堂さんが叫ぶ。山間に跳ね返った幽かなこだまが戻ってきたが、無論、助けが来るはずもない。

「どうした? お前を養ってくれるのは、会社。馬たちを養っているのも、会社。立場は同じだろうが」藤堂さんの身体をしっかり掴んだまま、所長がうそぶく。「むしろ、勤続年数から言えば馬のほうが先輩だ。その先輩の仕事を手伝わせてやるんだ、文句を言うな」

父が馬を引いて来た。先ほどまで所長と藤堂さんとで扱っていた馬だ。この懲罰騒ぎのあいだは散歩道の脇に繋いだまま、放置されていたのだが。

「浜緒、来い」

「は、はい、課長」浜緒さんがおずおずと進み出る。

「お前にも少し手伝ってもらおう。ここへ来て、膝をつけ」

父が指さしたのは、馬のすぐ横、後ろ脚の前あたりの地面だった。父からも藤堂さんからも、そして所長からも、少し離れすぎている。問題があるとすれば、馬とは近すぎる、というところだ。ふと、父の視線が私のほうを向いた。一瞬、父の唇が皮肉につり上がったように見えた。

「目が覚めたか……。なら、お前もだ。来い」

私と浜緒さんは、まるで姉妹のように仲良く、馬体の右側と左側に膝をついて座った。何をさせられるのか、何となく予想がついた。私だってそのくらいの推測は出来る。あまりに異常な推測ではあったけれど。

「馬がセックスできるように、ペニスを手でしごいて勃起させろ。やり方は……分かるな?」

自分の娘がそんなテクニックを知っていると思うのだろうか? だが逆らうわけにはいかない。私は恐る恐る、馬の股間に手を伸ばした。私の手と、浜緒さんの手が、いっしょになって馬の鞘を包む。指先が触れ合う。ここからどうしよう? 浜緒さんの手がそっと動いたので、私も同じように鞘にそって手を動かした。先端から根元へ、擦りあげるように、ただしあくまでも優しく撫で上げる。先っぽから根元へ。根元から先っぽへ。刺激を与えるように、ときに強く、ときには焦らすように。

二人がかりでの愛撫は、てきめんに効果的だった。生き物の肉体がこんなに変形できるというのは信じがたいが、馬の生殖器は、まるでスイッチを入れられたようにずううっと伸びてゆく。ふと盗み見ると、浜緒さんが魅入られたようにその様子を注視していた。頬が上気して、眼が潤んでいるようだ。私はあんな表情になっていないと良いが。

「ようし、いい感じだ。そのまま続けろ」

私たちに愛撫をさせたまま父は、馬の鼻先を藤堂さんのお尻のほうへと向けてやった。「よし、ちょうどいい位置だ」所長が藤堂さんの腰を持ちあげ、鼻先に押しつける。

「い、いやっ!! 気持ち悪い……やめて下さい!!」

馬の舌が伸び、尻を舐める。馬は藤堂さんのお尻が気に入ったようだった。歯を剥き出すと、触手のように長い舌を尻の割れ目に差しこんで、美味そうにくねらせる。馬の頭が上下に動き、太腿から股間を斬り上げるように舌を走らせ、再び奥のほうを舐めにゆく。

「もうちょっとだな。今度は口を使え。二人がかりで舐めて、たっぷり濡らしておくんだ」

ペニスは、すでに腕の長さに近い。あまりの長さに、弧を描いてだらりと垂れ下がっているほどだ。浜緒さんは手を添えて先端を持ちあげると、半開きにした唇をそこへ押しあてた。押しあてられた唇の中で舌が蠢いているのが見える。私だけぼんやりしているわけにもいかない。私は反対側から顔を寄せると、同じように唇を押しあて、舌を這わせた。

それは生殖器というより、木の瘤を舐めているような感じだった。ざらざらして、ごつごつして、およそ優しげなところがない。だが張りつめた弾力のようなものは感じられたし、なによりも、私の手の中で脈打っている血潮の熱さ、力強さが、まぎれもなくそれが男性の欲望をみなぎらせた器官であると知れる。私は……突然、口で愛撫するのは初体験だということに思い当たった。性体験そのものは、何度もある。だが、男のものを口で触れたのは、これが生まれて初めてなのだ。初めてのフェラチオを、動物のペニスでやっているなんて!! いったいどうして、こんな事になってしまったのだろう。

浜緒さんはというと、脇目もふらず、一心に馬のものを愛撫している。肉太の男根を舌でなぞり、唇で吸い、まるで心を捧げた主人に奉仕しているかのようだ。その熱心さに引き込まれ、私の愛撫もいつの間にか大胆になっていたようだ。大きく開けた口を先端に押しつけると、放出口の周辺に舌をのたうち回らせる。唇の端から唾液があふれ、顎が濡れる。浜緒さんの眼が、私の眼と合った。彼女の唇が開く。先端に顔を寄せ、舌が唾液を載せて奉仕する。私の舌と寄り添って、彼女の舌が馬のペニスを舐め回す。私たちの唾液が混じり合い、1つの肉棒を濡らした。私たちの唇の間で、馬が硬さを増していった。

「ようし、もう充分だ。二人とも離れろ」

馬がゆっくりと馬体を藤堂さんのほうへ向ける。股間のものが揺れて、歩きにくそうだ。「すごい……あんな、大きいなんて」浜緒さんの目は、馬の生殖器に吸い寄せられている。私には、あれが生殖器であるということのほうが信じられない。いくら相手が馬でも、あれを生きた肉体に挿し込むなんて可能なのだろうか。まして今回の相手は、ごく普通の人間の女だというのに!! あれがどうやって彼女の性器を通り、膣をつらぬくというのか。あんな巨大なものが、人間の女性の肉体で性欲を満足できるものなのだろうか。あの全長の一部しか埋められないのは明らかだし、女性のぬくもりを悦しめるのもごく先端の部分だけだろう。それでも悦しんだり、さらには射精したりなんて……

馬の前脚が、藤堂さんの胴をまたぐ。

「見ろ、たいした大きさだ」彼女の腰を捕まえたまま、何気ないそぶりで所長が言う。

柵に両手を結わえられた不自由な格好で、藤堂さんが後ろを振り向く。その時には既に、彼女の腰のすぐ後ろに馬の肉棒が迫ってきていた。

「な、なに、あれ……、あんな大きいの……、無理です……、やめて……やめて下さい!! いやっ!! 来ないでっ!!」

「ほう、なんだかまだ大きくなっているようだな。よっぽどお前と姦りたいらしいぞ、この馬は」所長の言葉には、間違えようのない悪意が篭もっている。「きっとお前のことを、美人の牝馬だと思ってるんだろうな。根元まで突っ込んでお前と交合りたいと言っているぞ。ありったけの子種を注いでやるから、お前の胎で仔を産んでくれとさ」

「な、なに言ってるんですか!? う、馬と人間じゃ、遺伝子が……」

「お前は、馬の種付けってもんを知らんだろうが。普通はな、種付けのために馬と馬をじかに交合らせるなんて、しないもんだ。種馬が射精した精液を保存しておいて、それを何倍にも薄めてから、何頭もの牝馬の子宮に注入する。種がもったいないからな。だが、今回は」怖れと嫌悪に震える彼女を見下して、所長はじわりと笑みを浮かべた。「今回は、いわば『原液』だ。受精率はものすごく高くなるぞ」

「い、いやぁぁぁぁーーーっ!!」理屈ではあり得ないと言えるだろうが、この場合は本能的な嫌悪感が勝った。白い尻をくねらせ、彼女は必死でけだものの生殖器を逃れようと足掻いた。「いやです!! いやですっ!! お願いです!! やめて……やめて下さい!! はなしてっ!! いやぁっ!!」

じたばたと暴れる藤堂さんの下半身を持ちあげ、所長の両手が左右から尻たぶを割り開いた。うす桃色の、汚れひとつなさそうな性器の内襞が晒され、そこへ黒々とした肉柱が向かってゆく。張り裂けそうに獣欲をみなぎらせた、巨大な肉の杭が。

「さあて、何頭孕むかな? まさか一頭ってことはないよな。二頭か? 三頭か? しっかり仕事して、会社の資産をたくさん殖やしてくれよ」

「いやぁぁぁあ……!!」藤堂さんはすでに、すすり泣いていた。「謝りますから……!! 私が悪かったんです……、申し訳ありません、もう二度と逆らいません!! お願いっ!! 許して!! 許して下さい!!」

「いまさら、何を言ってんだ、お前は。社畜の分際であんなでかい口たたいといて、あの威勢はどうした? お前の身の程がどんなものか、身体で教えてやるんだ、ありがたいと思え!!」

「ごめんなさい……!! ごめんなさい……!! そうです!! わたしは社畜です!! 会社に飼って頂いている畜生です!! なんでも言うことを聞きます!! だから……あっ……いやよっ……いやっ!! 駄目ぇぇぇっ!!」

私の位置からも、黒ずんだ棒の先端が消え始めているのが、見えた。わずかづつながら確かにそれは、彼女の内部へと侵入し始めている。

「やめて!! やめてっ!! こんな……こんなの……!! だ、誰かぁっ……助けて……!!」もはや暴れるほどの自由度も失って、藤堂さんはただ必死に懇願するだけだった。「課長……!! 浜緒さん……!! 誰でもいいから……助けて……お願い!! お願いだから……!! 誰か……っ!! ひ……ぃっ!! たすけて……ください……おねがいします……ああ……あっ……あうっ……うっ……ぐ、うううぅっ……!!」

自分の目で見ていながら、信じられなかった。馬のペニスが……男の人の腕みたいに太い、その肉柱が……藤堂さんの、ほっそりした腰の中心に呑み込まれてゆく。めりめりと肉の裂ける音が聞こえるようだ。だが何にもまして、人間の女性に馬の肉体が繋がっているという、異常な光景。馬がわずかにいななき、その真下ではやっと社会に一歩踏み出したばかりの乙女が苦痛にすすり泣いている。位置が合わないのか、ときおり馬の足がたたらを踏むと、剛直な肉棒が揺れて胎内を掻き回す。恐ろしい緊張感がこの場を支配していた。うかつに物音でもたてようものなら、いや、冷ややかなそよ風が吹いてくるだけでも、この場の何もかもを破滅させてしまいそうで、わたしは地面にへたり込んだまま呆然と獣姦の営みを見守っていた。

「ほほう、たいしたもんだ、こんな太いのでも呑み込めるか」所長は彼女をいたぶるのを忘れない。「お前は素質があるぞ。牝馬の素質がな。よし、極上の牝馬になれるよう、調教してやるか」

馬が足を踏みならし、腰を止める。そしてためらいがちに、たどたどしく腰を前後しはじめた。

「入ってる……」つぶやいた浜緒さんの顔は、ほおっと上気していた。「あんなに、太いのに……あんな……深くまで……ああ、濡れてるわ、ああ……」

見ている私までおかしくなってきそうだ。引きずり出されたペニスが、ぬらぬらと妖しげにひかっている。あんな位置まで、藤堂さんの愛液が付いている。その濡れた怪物が、再び彼女の肉体に潜りこんでゆくと、藤堂さんの身体が強張り、ぶるぶると震えた。そしてまた肉塊が引き出されると、彼女は搾り出すような喘ぎを漏らして啜り泣く。泣いている彼女の中へ、三度、生殖器が突き刺される……。

わたしは目を離すことが出来なかった。潔癖そのものであったあの藤堂さんが、今、私が見ている前で、変えられてゆく。彼女自身の心持ちはさにあらず、その肉体が、馬の物を受け入れ、馬と交合が可能なように適応しようとしている。三度、四度と挿入を繰り返すうち、馬の腰はなめらかに突き上げるようになり、藤堂さんは苦痛の声も漏らさずそれを受け入れていった。信じられない……が、他になんと言えようか。彼女は牝馬としての職務を、順調に果たしつつあった。

馬がひくくいなないた。所長と父が、とっさに馬の身体を抑える。馬体の背が反り返ったように見え、腰がぐうっと押し込まれ……

「あぁああああっ!!」

藤堂さんが戦慄いた。その股間から、びしゃびしゃと音を立てて濃密な液体が溢れ、地面をうつ。春の風が、むっ、とする生臭い臭いを運んできた。

「漏らすなよ。お前の先輩の、ありがたい精子だぞ」

馬が満足げな低いいななきを漏らして、気怠そうに腰を揺らした。ねとねとになったペニスが、ずるりと藤堂さんの体内から引き出される。なんだか、膣内でさらに成長したようだ。肉欲を達成して張りを失ったはいたが、もう終わるか、もう終わるかと思っても、まだ長さがある。いったいどこまで入っていたんだろう?

ついに先端が引き出されたとき、私は息を呑んだ。その亀頭はまるで内側から裏返しにされたかのように大きく反り返り、まるで逆に傘を開いたキノコか、軟体生物の吸盤のようなありさまだった。そう、まるで、腕を引き出したら掌をいっぱいに開いていたような。その吸盤が、牡と牝の体液をまとってぬらりとひかっている。中心から、射精の名残が大きな雫となってぱたぱたと滴り落ちた。

「たっぷり、注いでもらったようだな」所長の言葉に答えるかのように、藤堂さんのお尻がひくひくと蠢いた。「ほう、たいしたの量だ。孕むには充分だな、藤堂。お前の胎に宿った馬の仔は何頭だ? 3頭か? 4頭か? 言ってみろ、仕事には報告が必要だぞ」

「……」

「どうした? 報告も出来ないようじゃ、研修を通すわけにはいかんなぁ」

所長の指が、獣の精液に汚れた股間に差しのばされ、ねとつく粘液をすくい取って、白い尻たぶになすりつける。

「偉そうなことを言っておいて、報告もできんのか。それなら、ずっと家畜として扱ってやろう。家畜は、報告などしないからな」

「……できません」俯いたまま、藤堂さんは蚊の鳴くような声で言った。「妊娠は……できません。……だって……だって」泪声で彼女は訴えた。「だって……あたしは人間なのに……馬となんて、妊娠できません……!!」

◆ ◆ ◆

To Be Continued ...



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