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想い出をそこに


Ver 1.00

作:C野夢子(ZooM-C)



1枚目。たしか「花火観戦!! 必殺納涼オフ会」のときだ。彼とはこのときが初対面だったはず。それしても、すごい名前のオフ会だな。日付は4年前。

11枚目。えーっと、これはサッカーの試合を見に行った帰りだったか。二人っきりで会ったのは、これが最初。日付は3年半前。

40枚目。うお、遊園地だ。デートだ。うひー、おめかししてるよ、自分。つーか、若いなあ。元気だなあ。青春だなあ。日付は2年と9ヶ月前。

48枚目。あー、カラオケ。二人っきり。日付は2年と3ヶ月前。半年で8枚しか残ってないのかよ。まあ、なんか冷めてきた時期だからな。

コマンド実行。データ消去開始。デジカメに記録された画像が、次々に消えてゆく。全部で48枚の想い出。私と彼との記憶の、ベストセレクション。だけどそれは、もういらない。私は明後日、式を挙げる。ここに記録されている彼とではなく。

もしデジカメがしゃべれたら何と言うだろう。4年間ずっと使ってきたデジカメ。私と、彼とを、ずっと撮り続けてきたデジカメ。使い込まれて、色あせて、傷がいっぱいついたデジカメ。48枚の画像は、デジカメにとっても思い出深い記録のはずだ。「消さないで」とでも言うのだろうか。「忘れたくない」とか。でも、デジカメはしゃべれない。消去しろと命令されれば、黙って消去するだけだ。

すべての画像が消去されると、私はデジカメの電源をオフにし、メモリーカードを抜いた。このデジカメも、もう古いし、あちこちガタがきている。そろそろ新型に買い換える頃合いだろう。

私はデジカメを「捨てるもの入れ箱」に入れ、メモリーカードを「新居に持っていくもの箱」に入れた。整理するものは、まだ山ほどあった。

◆ ◆ ◆

結婚して1年半。その話を夫にしたところ、「そりゃひどいよ」と言われた。画像を消したのもデジカメを捨てたのも構わないけど、メモリーカードだけ持ってきたのが「ひどい」らしい。そうかな。どのみちデジカメは古くなってあまり使いでが無くなってたから捨てたんだし、メモリーカードはまだ充分使えたから持ってきた。それだけなんだけど。

実際、そのメモリーカードはまだ使っている。私はデジカメにUSBケーブルを挿すと、パソコンと接続した。そしてパソコンのいつものフォルダの下に、今日の日付のフォルダを新規作成する。データのコピーにはたいして時間もかからない。デジカメから画像をコピーし終えると、私はデジカメ側のデータを消去した。結婚前は、こんな単純なことも出来なかったなあ、私は。記憶容量が足りなくなってくると、デジカメ側の画像を1枚づつ吟味して、消しても良さそうなデータを必死で探したものだった。今ならそんなことはしない。データはパソコン側に保存して、デジカメのメモリーカードはいつでも余裕たっぷりだ。

全てのデータが消去され、メモリーカードは新品同様にまっさらになった。これでまた、たくさん写真を撮れる。

でも、このメモリーカードに記録されるのは、夫ではなく、別の人間になるだろう。私は、まるまると膨らんだ自分のおなかを撫でた。出産予定日は来月。あなたとは、どんな想い出ができるのかしら。

Fin.


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