雑談の広場:コメント投稿
[ 1236 ]
Re:落日4-3-1
[ 名前:
maxi
]
[ 日付:
2010年11月12日(金) 02時57分
]
3
祝日の関係で一泊多くなり、次の晩も妻の躰に無数の所有印を刻み付けた拓雄は、家族との暫しの別離を惜しみながら、
祝日明けの会議のために、昼前に慌しく赴任先へと戻っていった。
「パパが元気になってよかったね、ママ」
二週間前とは見違えるように生気を取り戻した父親の姿は、あゆみに久しぶりの元気な笑顔を取り戻させていた。
「あゆみのためにも、元気でいてもらわないとね……」
首元にスカーフを巻いた彩子の視線が日差しの照り付ける庭に面したガラス戸に向けられ、
その口元に淫蕩な笑みが浮かぶ。ガラス戸の向こうから、ジョンが家の中を窺うように覗き込んでいた。
「そうだわ。あゆみ、夏休みになったらおばあちゃんのところへ遊びに行ってらっしゃい。そうねぇ……、来週すぐにでも、おばあちゃんに迎えに来てもらいましょう」
「やったぁ! 今年も海に連れて行ってもらえるかなぁ。――ねぇ、ママもいっしょだよね?」
「ママはね、ジョンのお世話をしないといけないの。だから、あゆみ一人で行くのよ」
母親の言葉にあゆみの表情が曇り、また自分よりも飼い犬の都合が優先されていると感じて口を尖らせる。
「いっしょに……、来てくれないの?」
「いい? あゆみはおばあちゃんたちと一緒だけど、ママまで行ったらジョンは一人で寂しいでしょ? それに、去年はあゆみ一人で行ってたじゃない」
一つ大きな溜息を吐いて、聞き分けのない娘を諭すように、その頭を撫でながら彩子はジョンを残しておけない理由を説明する。
「うん……。でも……」
自分が居なければ母親が夜の散歩から本当に戻って来なくなるのではないかと、あゆみの小さな胸は不安で一杯になる。
「もう、仕方のない子ね……。パパが帰ってきたら、一緒にあゆみが元気にしているか見に行くから……。それでいい?」
「――約束だよ、ママ」
母親の顔を見上げ、あゆみは約束が守られることを祈った。
「はいはい、もうこの話は終わりにしましょう。あゆみ、おばあちゃんのところでは我儘を言わないで、いい子にしてるのよ」
娘のすがるような視線を邪険に振り払い、彩子はドッグフードがたっぷりと盛られた器を手に鼻歌交じりで飼い犬の許へと向かい、
途中で何かを思い出したかのように娘の方を振り返った。
「そうだ。二日もお散歩をお休みしてしまったから、今から散歩に行ってくるわ。お昼はテーブルの上に用意しておいたから、お腹が空いたら食べてね」
テーブルを振り返ったあゆみは、その上に置かれた出来合いのお弁当を見て、ただ呆然と立ち尽くした。
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> 3 > > 祝日の関係で一泊多くなり、次の晩も妻の躰に無数の所有印を刻み付けた拓雄は、家族との暫しの別離を惜しみながら、 > 祝日明けの会議のために、昼前に慌しく赴任先へと戻っていった。 > 「パパが元気になってよかったね、ママ」 > 二週間前とは見違えるように生気を取り戻した父親の姿は、あゆみに久しぶりの元気な笑顔を取り戻させていた。 > 「あゆみのためにも、元気でいてもらわないとね……」 > 首元にスカーフを巻いた彩子の視線が日差しの照り付ける庭に面したガラス戸に向けられ、 > その口元に淫蕩な笑みが浮かぶ。ガラス戸の向こうから、ジョンが家の中を窺うように覗き込んでいた。 > 「そうだわ。あゆみ、夏休みになったらおばあちゃんのところへ遊びに行ってらっしゃい。そうねぇ……、来週すぐにでも、おばあちゃんに迎えに来てもらいましょう」 > 「やったぁ! 今年も海に連れて行ってもらえるかなぁ。――ねぇ、ママもいっしょだよね?」 > 「ママはね、ジョンのお世話をしないといけないの。だから、あゆみ一人で行くのよ」 > 母親の言葉にあゆみの表情が曇り、また自分よりも飼い犬の都合が優先されていると感じて口を尖らせる。 > 「いっしょに……、来てくれないの?」 > 「いい? あゆみはおばあちゃんたちと一緒だけど、ママまで行ったらジョンは一人で寂しいでしょ? それに、去年はあゆみ一人で行ってたじゃない」 > 一つ大きな溜息を吐いて、聞き分けのない娘を諭すように、その頭を撫でながら彩子はジョンを残しておけない理由を説明する。 > 「うん……。でも……」 > 自分が居なければ母親が夜の散歩から本当に戻って来なくなるのではないかと、あゆみの小さな胸は不安で一杯になる。 > 「もう、仕方のない子ね……。パパが帰ってきたら、一緒にあゆみが元気にしているか見に行くから……。それでいい?」 > 「――約束だよ、ママ」 > 母親の顔を見上げ、あゆみは約束が守られることを祈った。 > 「はいはい、もうこの話は終わりにしましょう。あゆみ、おばあちゃんのところでは我儘を言わないで、いい子にしてるのよ」 > 娘のすがるような視線を邪険に振り払い、彩子はドッグフードがたっぷりと盛られた器を手に鼻歌交じりで飼い犬の許へと向かい、 > 途中で何かを思い出したかのように娘の方を振り返った。 > 「そうだ。二日もお散歩をお休みしてしまったから、今から散歩に行ってくるわ。お昼はテーブルの上に用意しておいたから、お腹が空いたら食べてね」 > テーブルを振り返ったあゆみは、その上に置かれた出来合いのお弁当を見て、ただ呆然と立ち尽くした。 > > >
祝日の関係で一泊多くなり、次の晩も妻の躰に無数の所有印を刻み付けた拓雄は、家族との暫しの別離を惜しみながら、
祝日明けの会議のために、昼前に慌しく赴任先へと戻っていった。
「パパが元気になってよかったね、ママ」
二週間前とは見違えるように生気を取り戻した父親の姿は、あゆみに久しぶりの元気な笑顔を取り戻させていた。
「あゆみのためにも、元気でいてもらわないとね……」
首元にスカーフを巻いた彩子の視線が日差しの照り付ける庭に面したガラス戸に向けられ、
その口元に淫蕩な笑みが浮かぶ。ガラス戸の向こうから、ジョンが家の中を窺うように覗き込んでいた。
「そうだわ。あゆみ、夏休みになったらおばあちゃんのところへ遊びに行ってらっしゃい。そうねぇ……、来週すぐにでも、おばあちゃんに迎えに来てもらいましょう」
「やったぁ! 今年も海に連れて行ってもらえるかなぁ。――ねぇ、ママもいっしょだよね?」
「ママはね、ジョンのお世話をしないといけないの。だから、あゆみ一人で行くのよ」
母親の言葉にあゆみの表情が曇り、また自分よりも飼い犬の都合が優先されていると感じて口を尖らせる。
「いっしょに……、来てくれないの?」
「いい? あゆみはおばあちゃんたちと一緒だけど、ママまで行ったらジョンは一人で寂しいでしょ? それに、去年はあゆみ一人で行ってたじゃない」
一つ大きな溜息を吐いて、聞き分けのない娘を諭すように、その頭を撫でながら彩子はジョンを残しておけない理由を説明する。
「うん……。でも……」
自分が居なければ母親が夜の散歩から本当に戻って来なくなるのではないかと、あゆみの小さな胸は不安で一杯になる。
「もう、仕方のない子ね……。パパが帰ってきたら、一緒にあゆみが元気にしているか見に行くから……。それでいい?」
「――約束だよ、ママ」
母親の顔を見上げ、あゆみは約束が守られることを祈った。
「はいはい、もうこの話は終わりにしましょう。あゆみ、おばあちゃんのところでは我儘を言わないで、いい子にしてるのよ」
娘のすがるような視線を邪険に振り払い、彩子はドッグフードがたっぷりと盛られた器を手に鼻歌交じりで飼い犬の許へと向かい、
途中で何かを思い出したかのように娘の方を振り返った。
「そうだ。二日もお散歩をお休みしてしまったから、今から散歩に行ってくるわ。お昼はテーブルの上に用意しておいたから、お腹が空いたら食べてね」
テーブルを振り返ったあゆみは、その上に置かれた出来合いのお弁当を見て、ただ呆然と立ち尽くした。